ホテル業界におけるOTAとは?最新動向と効果的な活用法

インターネットの急速な普及により、宿泊予約の形態は大きく変化しました。現在では世界中どこからでも、スマートフォン一つで宿泊施設を検索・予約することが可能になっています。そんな中、OTA(オンライン旅行代理店)の存在感は年々高まっており、宿泊施設運営者にとって避けて通れない存在となっています。
OTA(オンライン旅行代理店)の基本
OTAとは「Online Travel Agent」の略称で、実店舗を持たずインターネット上のみで旅行商品を販売する旅行会社のことです。国内では楽天トラベルやじゃらん、国外ではBooking.comやExpediaなどが代表的なOTAとして知られています。
従来型旅行会社(TTA)との違い
JTBやHISなどの従来型旅行会社(TTA: Traditional Travel Agent)との大きな違いは、実店舗の有無です。TTAもオンラインでの販売を行っていますが、実店舗も運営しているため、OTAには分類されません。
OTAの特徴は、検索から予約、支払い、チェックインまでをオンライン上だけで完結できる利便性にあります。これにより、時間や場所を問わず宿泊予約が可能となり、ユーザーにとっても施設側にとっても大きなメリットとなっています。
日本におけるOTA利用の現状
アメリカの大手旅行調査のフォーカスライト社の調査によると、日本における宿泊施設のオンライン販売率は2018年時点で44%に達しています。特に国内ビジネスホテルのオンライン販売率は55%と高水準を記録しています。
同社の予測では、2022年のオンライン販売率は49%まで増加すると見込まれていました。新型コロナウイルスの影響で一時的に旅行需要は減少したものの、現在では回復傾向にあり、むしろ衛生面や非接触を重視する傾向から、オンライン予約の比率はさらに高まっていると考えられます。
インバウンド市場におけるOTAの重要性
世界的に見ると、OTAの利用率はさらに高くなります。中国ではホテル予約の91%がOTA経由、アメリカでも72%とOTA経由での予約が主流となっています。
つまり、訪日外国人観光客(インバウンド)のほとんどがOTAを通じて宿泊施設を予約するということです。2023年以降、コロナ禍からの回復に伴い急速に増加している訪日外国人に対応するためにも、国外OTAへの掲載は不可欠と言えるでしょう。
主要OTAサイトの特徴と客層比較
各OTAサイトにはそれぞれ特色があり、利用する客層も異なります。自社の宿泊施設に最適なOTAを選ぶために、主要サイトの特徴を押さえておきましょう。
【国内OTA】
1. じゃらん
特徴
- 国内最大規模のOTAで、アクセス数トップを誇る
- 「日帰り」や「出張」など目的別検索機能が充実
- 温泉宿の掲載が豊富で「源泉掛け流し」「にごり湯」などの細かなカテゴリー分けあり
- リクルートポイントが貯まり、ホットペッパーなど他サービスでも使用可能
主な客層
ファミリー層、女性客(温泉旅行)が多め、ビジネス利用は比較的少ない。
2. 楽天トラベル
特徴
- じゃらんに次ぐアクセス数を誇る
- 楽天市場の会員基盤を活かした潜在顧客の多さが強み
- ビジネス出張向けの機能が充実
- 楽天ポイントの還元率の高さが魅力
- 「ANAパック」など独自のパックプランあり
主な客層
ビジネスマンが圧倒的に多く、出張利用による安さ重視のユーザーが中心。
3. 一休.com
特徴
- 高級旅館・高級ホテルのみを取り扱う
- 掲載宿数は少ないが、明確なコンセプトで差別化
- 「一休.comビジネス」で高級ビジネスホテル特化型のサービスも展開
- 顧客満足度の高さが特徴
主な客層
平均年齢40代、富裕層、記念日を祝うカップルが多い
4. Yahoo!トラベル
特徴
- Tポイント5%還元を実施(楽天1%、じゃらん2%に対して高還元率)
- 「子供連れに人気×東北」など詳細なランキング機能あり
- ビジネス利用者向けに路線図検索機能あり
- 直前割引プランが豊富
主な客層
ビジネスマン、ファミリー層、価格重視の利用者
【国外OTA】
5. Booking.com
特徴
- 世界70カ国以上でサービス展開する世界最大のOTA
- ホテル、バケーションレンタル、ビジネス利用に強み
- インバウンド集客に最適
- 24時間年中無休のサポートで言語の壁を軽減
- グランピングや船上ホテルなど特殊な宿泊施設も検索可能
- 個人経営者(民泊タイプ)の掲載も多い
主な客層
世界各国からの旅行者、ビジネス利用者、一人旅行者が多い
6. Airbnb
特徴
- 2008年アメリカで民泊向けに始まり、現在は世界220の国と地域をカバー
- 貸別荘、バケーションレンタル、一棟貸し施設に強み
- 累計10億人以上が利用する人気サービス
- ユニークな宿泊体験を提供する施設が多い
主な客層
海外からのバックパッカー、一棟貸し利用のグループ客が中心
OTA掲載のメリット
1. 集客力の向上と顧客層の多様化
各OTAサイトには特色があり、それぞれ異なる客層を持っています。複数のOTAに掲載することで、幅広い年齢層や客層にアプローチすることが可能になります。また、国内OTAだけでなく、Booking.comのような国外OTAに掲載することで、インバウンド需要の取り込みも期待できます。
新規オープンの宿泊施設であれば、「どのような客層をターゲットとしたいか」という観点からOTAを選択することで、効果的なブランディングにもつながります。
2. 認知度と信頼性の向上
OTAへの掲載は、多くの潜在顧客の目に触れる機会を提供します。たとえその時点で予約に至らなくても、認知度が上がることで将来の予約につながる可能性があります。
また、OTAでの高評価や口コミの蓄積は、宿泊施設の信頼性向上にも大きく貢献します。特に新規施設にとって、評価の高い施設として表示されることは、集客力を大幅に高める効果があります。
3. 業務効率化とコスト削減
電話予約に比べ、OTAを通じたオンライン予約は業務効率の向上につながります。24時間予約受付が可能になり、多言語対応も容易になるため、特にインバウンド対応の負担が軽減されます。
また、サイトコントローラーやPMS(Property Management System)との連携により、予約情報の入力業務や料金・在庫状況の管理も自動化できます。さらに、チェックインシステムの導入により、レジカード記入やパスポートコピー、領収書発行なども自動化でき、人為的ミスの防止にもつながります。
OTA活用における課題と対策
1. 手数料(コミッション)負担の問題
OTAの利用には予約成立時に手数料(コミッション)が発生します。一般的に売上の10〜20%程度がOTAに支払われるため、予約数が増えるほど手数料負担も大きくなります。この負担を軽減するには、自社サイトでの直接予約の割合を高めることが重要です。
2. 価格競争のリスク
OTAでは競合施設との価格比較が容易なため、価格競争に巻き込まれるリスクがあります。過度な値下げ競争は利益率の低下を招くため、価格だけでなく、施設の独自性や付加価値を前面に出す戦略が必要です。
3. 自社サイト予約への誘導
OTAで集客しつつ、最終的には自社サイトでの予約に誘導することが理想的です。そのためには、自社サイトで予約するメリットを明確に打ち出す必要があります。
自社サイト予約を増やすための施策
- 最低価格保証: 自社サイトでの予約が最も安くなる価格設定
- 特典の付与: 自社サイト予約限定の特典(アーリーチェックイン/レイトチェックアウト、朝食サービスなど)
- 会員制度の導入: リピーター向けの特別サービスやポイント制度
- 多言語対応: インバウンド客も直接予約できる環境整備
- 魅力的なコンテンツ: 施設の特徴や周辺情報など、OTAでは伝えきれない情報の充実
最新トレンド:OTA活用の新たな方向性
1. メタサーチエンジンの活用
Google Hotel AdsやTrivago、Kayakなどのメタサーチエンジンは、複数のOTAの価格を一度に比較できるプラットフォームです。これらのサイトに掲載することで、さらなる集客チャネルの拡大が期待できます。
2. SNSと連携したプロモーション
Instagram、Facebook、TwitterなどのSNSで話題になった宿泊施設は、OTAでの検索・予約にもつながります。SNSでの魅力的な投稿と、OTAページへの誘導を組み合わせることで、相乗効果が期待できます。
3. AIとビッグデータの活用
OTAから得られる予約データや顧客情報を分析することで、より効果的な料金設定や販売戦略の立案が可能になります。レベニューマネジメントツールなどを活用し、需要予測に基づいた最適な価格設定を行うことで、収益の最大化を図ることができます。
OTA活用の最適戦略
OTAは宿泊施設にとって、集客力の向上や業務効率化などさまざまなメリットをもたらします。一方で、手数料負担や価格競争などのデメリットも存在します。
最適なOTA活用戦略としては、以下のポイントが重要です。
- 施設の特性に合ったOTAの選定: ターゲット客層や施設コンセプトに合わせたOTA選び
- 複数OTAの活用: 国内・国外の複数OTAを活用し、顧客層の多様化を図る
- 自社サイトの強化: OTAと並行して自社サイトでの直接予約を増やす取り組み
- データ分析に基づく戦略: 予約データを分析し、最適な料金設定や販売戦略を立案
- 差別化要素の強調: 価格だけでなく、施設の独自性や付加価値を前面に出す
OTAを単なる販売チャネルとしてだけでなく、マーケティングツールとして戦略的に活用することで、宿泊施設の収益向上と持続的な成長につなげることができるでしょう。
デジタル時代の宿泊施設運営において、OTAは欠かせない存在となっています。その特性を理解し、効果的に活用することが、今後の宿泊業界で成功するための鍵となるでしょう。
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