『柚木さんちの四兄弟。』の兄弟が「界 アルプス」に泊まる! 星野リゾート×ベツコミで見えてきた、宿とマンガの5つの組み方

小学館の少女マンガ誌「ベツコミ」と星野リゾートのコラボレーションが、2026年10月22日に発表されました。藤沢志月さん、文倉咲さん、宇佐美真紀さんの人気作のキャラクターが、星野リゾートの実在する施設に滞在するオリジナルストーリーを描き、小畑友紀さんは温泉旅館を訪ねる特別エッセイを寄稿します。掲載は2027年2月12日発売の「ベツコミ」2027年3月号から順次始まります。

星野リゾートがマンガ家と組むのは、実は今年2度目です。4月には集英社のファッション誌5誌と連携した「旅するマンガ」を始動させたばかりでした。ホテル運営会社が、なぜここまでマンガに力を入れるのか。この記事ではコラボの中身を確認したうえで、ホテル・旅館とマンガの関わり方を5つの形に分けて整理していきます。

目次

星野リゾート×ベツコミで描かれる4つの物語

今回の企画は、連載中の人気作のキャラクターを実在の宿に泊まらせるという点に特徴があります。小学館の発表によると、ホテル運営会社と協働してマンガを制作すること、既存の連載作品の舞台として実際の宿泊施設を描くことは、小学館と星野リゾートの両社にとって初の試みです。

『柚木さんちの四兄弟。』の兄弟が信州の温泉旅館へ

第1弾として登場するのが、藤沢志月さんの『柚木さんちの四兄弟。』(小学館)です。両親を亡くした四兄弟の温かな日常を描いたファミリーストーリーで、第66回小学館漫画賞(少女向け部門)を受賞し、ドラマ化とアニメ化もされています。舞台は長野県・大町温泉の温泉旅館「界 アルプス」で、信州の自然や伝統文化に包まれた宿で兄弟たちが過ごすひとときが描かれます。3月号と4月号の2回にわたって掲載される予定です。

京都の街ナカホテル、沖縄の離島リゾート、そして北海道と箱根の温泉旅館

第2弾は文倉咲さんの『遼河社長はイケない。』(小学館)です。仕事熱心な主人公とイケメン社長の秘密の恋を描くラブストーリーで、忙しい2人が「OMO5京都祇園」を拠点に京都で過ごす休日が、ホテルで働く主人公ならではの目線で描かれます。

第3弾は宇佐美真紀さんの『シェアハピ』で、年齢もタイプも異なる4人の女性の恋と人生を描く群像オムニバスです。舞台は沖縄県・八重山諸島の「リゾナーレ小浜島」。宇佐美さんは『ココロ・ボタン』などで知られる、ベツコミを代表する作家のひとりです。

第4弾は、『僕等がいた』の小畑友紀さんによるエッセイマンガです。『僕等がいた』は累計発行部数1200万部を超え、2005年に第50回小学館漫画賞少女向け部門を受賞、アニメ化と実写映画化もされた恋愛マンガの代表作です。小畑さんは北海道・白老温泉の「界 ポロト」と、箱根の「界 仙石原」を訪れて執筆します。5月号と6月号に掲載され、2027年7月以降には収録作品をまとめたコミックスの発売も予定されています。

そもそも、なぜホテル運営会社がマンガ誌と組むのか

理由は両社の発表資料にはっきり書かれています。星野リゾートは「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO」「BEB」「LUCY」の6ブランドを国内外81施設で展開していますが、お客様からは「星野リゾート」というひとつの大きなイメージで捉えられがちで、ブランドごとの世界観や滞在の具体的なイメージが十分に伝わっていない、という課題を抱えていました。

そこで選んだのが、ブランドの違いを言葉で「説明」するのではなく、マンガの「物語」として体験してもらう方法です。客室の写真や料金表では伝わりにくい、宿で過ごす時間の手ざわりや、誰と行くとどんな会話が生まれるのかといった部分は、キャラクターに泊まってもらうほうがずっと伝わります。ベツコミ側には、創刊から半世紀を超え、母娘2世代で読み継ぐ読者も多いという強みがあります。旅の決定権を持つ大人世代と、これから旅を覚える若い世代に同時に届く媒体だという点も、今回の組み合わせの妙といえそうです。

ホテル・旅館とマンガの関わり方は、大きく5つに分けられる

宿とマンガの組み合わせは、今回が初めてではありません。ただ、その関わり方は一様ではなく、宿を舞台に描いてもらうもの、作品の世界に泊まるもの、マンガそのものを読みに泊まるものまで幅があります。ここでは代表的な5つの形を、実際の事例とともに見ていきます。

1. 宿をマンガに描き下ろしてもらう(星野リゾート×集英社「旅するマンガ」)

ベツコミとの企画の半年前、2026年4月23日に星野リゾートが発表したのが「星野リゾート×集英社創業100周年~旅するマンガ~」です。集英社のファッション誌5媒体と組み、5ブランドの世界観を5人のマンガ家が描き下ろすという大型企画で、「星のや」をT JAPANで神尾葉子さん、「界」をéclatで槇村さとるさん、「リゾナーレ」をMAQUIAで持田あきさん、「OMO」をBAILAでウオズミアミさん、「BEB」をnon-noで春田ななさんが担当します。

面白いのは、ブランドごとに雑誌の読者層を合わせている点です。母娘の温泉旅は40〜50代向けのéclatで、仲間とルーズに過ごすBEBは20代中心のnon-noで、というように、宿の性格と読者の人生のステージを物語でつないでいます。今回のベツコミ企画は、オリジナル作品ではなく既存の人気連載のキャラクターを宿に送り込むという点で、その一歩先を行く形です。『花より男子』の神尾葉子さんが描く「星のや」の物語も、往年のファンには気になるところでしょう。

2. 実在のホテルを巡るマンガ(『おひとりさまホテル』)

宿の側が依頼するのではなく、マンガ自体が実在の宿を描いて人気を得ている例もあります。まろさん原案、マキヒロチさん漫画の『おひとりさまホテル』(新潮社)は、設計会社に勤める主人公と同僚たちが、それぞれのやり方でひとりのホテル時間を楽しむ物語です。登場するのは実在のホテルばかりで、2023年1月の第1巻から2026年6月の第9巻まで刊行が続き、第10巻は11月の発売が予定されています。

読者は物語を楽しみながら、自然と「このホテルに泊まってみたい」というリストを作っていきます。マンガの中の滞在がそのまま旅の予習になる構造は、星野リゾートが今回マンガに期待している効果とほぼ同じものです。作品の魅力は、以前の紹介記事でも詳しく取り上げています。

3. 作品の中の宿が、現実の温泉街を動かす(『花咲くいろは』×湯涌温泉)

2011年に放送されたテレビアニメ『花咲くいろは』は、温泉旅館「喜翆荘」で働く女子高生の成長物語です。作中の湯乃鷺温泉のモデルとなったのが金沢市の湯涌温泉で、作中に登場する架空のお祭りを再現した「湯涌ぼんぼり祭り」が、放送と同じ2011年の10月に初めて開かれました。2020年と2021年の中止をはさみながらも毎年10月の恒例行事として続き、2025年には13回目を迎えています。アニメ発の企画ですが、千田衛人さんによるコミカライズ版(スクウェア・エニックス)も全5巻で刊行されています。

作品の舞台が温泉街全体に広がると、企画の規模も大きくなります。佐賀県の古湯温泉街では、2026年に『キングダム』が街をジャックし、半年で延べ約32万人を集めました。宿単体ではなく、温泉地まるごとが物語の舞台になった例です。

4. 推しの世界に泊まるコラボルーム(サンシャインシティプリンスホテル)

ファンにとって一番わかりやすいのが、客室そのものを作品仕様にするコラボルームです。池袋のサンシャインシティプリンスホテルは、アニメ『花ざかりの君たちへ』の描き下ろしイラストに囲まれて泊まれるプランを2026年9月19日から12月19日まで販売しているほか、『ブルーロック』や劇場版『チェンソーマン レゼ篇』などのコラボルームも手がけてきました。カフェなら1〜2時間の体験が、ホテルなら一晩まるごと作品の世界になります。

ただし、コラボルームはアニメ化や映画公開のタイミングに合わせた期間限定企画が中心で、IPの使用許諾や内装の作り込みにも相応の準備が必要です。どの宿でも気軽に取り入れられる手法ではない点は、押さえておきたいところです。

5. マンガを読むために泊まる(MANGA ART HOTEL, TOKYO)

最後は、マンガそのものが宿泊の目的になる形です。2019年2月1日に東京・神田にオープンした「MANGA ART HOTEL, TOKYO」は、約5,000冊のマンガに囲まれて眠れるコンセプト型カプセルホテルで、「眠れないホテル」を掲げています。現在は名古屋・丸の内に2万冊が読み放題のアパートメントホテルも展開しています。

ここまで振り切った専門ホテルでなくても、ラウンジや大浴場の休憩スペースにマンガの棚を置く宿は年々増えています。特定の作品と組むのではなく、数百冊から数千冊の棚で「ここに来れば何か読める」という安心感をつくるやり方で、他の4つの形と違って期間の縛りがありません。

一覧で見る、ホテル・旅館とマンガの5つの組み方

ここまでの事例を、関わり方の形ごとに整理しました。

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No.関わり方事例時期特徴
1宿を描き下ろしてもらう星野リゾート×ベツコミ2026年10月発表、2027年2月から掲載既存の人気連載4作家が界・OMO・リゾナーレを描く
2宿を描き下ろしてもらう星野リゾート×集英社「旅するマンガ」2026年4月始動ファッション誌5誌×マンガ家5名で5ブランドを描く
3実在のホテルを巡るマンガ『おひとりさまホテル』(新潮社)2023年1月〜(既刊9巻)実在ホテルでのひとり時間を物語で紹介
4作品の宿が現実を動かす『花咲くいろは』×湯涌温泉2011年10月〜作中の祭りを再現した湯涌ぼんぼり祭りが2025年で13回目
5推しの世界に泊まるサンシャインシティプリンスホテルのコラボルーム2026年9月19日〜12月19日(花ざかりの君たちへ)描き下ろしイラストの客室とアメニティ
6マンガを読むために泊まるMANGA ART HOTEL, TOKYO2019年2月開業約5,000冊に囲まれて眠るカプセルホテル

物語が、宿を選ぶ理由になりはじめている

5つの形を並べてみると、共通しているのは「宿で過ごす時間」を事前に想像させる力です。宿泊施設の予約は、写真と料金と口コミを見比べる作業になりがちです。そこにマンガの物語が入ると、誰と行き、何を食べ、どんな会話をするのかまでが具体的に浮かび、比較ではなく憧れで宿が選ばれるようになります。

星野リゾートが半年のあいだに出版社2社と組んだのは、この効果を本格的に取りにいく動きと見ることができます。そして宿の側から見れば、物語は館外での発信だけでなく、館内での過ごし方にも使えます。マンガを読む時間は、チェックインから夕食まで、あるいは朝食後のチェックアウトまでの「すき間」をそのまま滞在の楽しみに変えてくれるからです。

ベツコミ3月号の発売前に、四兄弟を読み返しておく

第1弾の『柚木さんちの四兄弟。』は2027年2月12日発売のベツコミ3月号から掲載が始まります。兄弟たちがどんな関係で、どんな日常を送ってきたのかを知っていると、界 アルプスで過ごすひとときの見え方が変わるはずです。小畑友紀さんのエッセイで界 ポロトや界 仙石原が気になったら、その宿を次の旅先の候補に加えてみるのも楽しみ方のひとつです。『おひとりさまホテル』を片手に、ひとりで泊まりに行くホテルを探してみるのもいいでしょう。

「読みたいから、もう1泊」と言われる宿をつくるには

人気作家に宿を描いてもらう企画は、大手チェーンだからこそ実現できる面があります。一方で、物語の力で滞在を豊かにするという発想そのものは、規模を問わず取り入れられます。ラウンジや湯上がり処、客室フロアの一角にマンガの棚があるだけで、チェックイン後の空き時間や雨の日、子ども連れの夜が「読んで過ごす時間」に変わります。全巻そろった長編があれば、続きが気になって連泊や再訪のきっかけにもなります。

スマートコミックは、ホテル・旅館をはじめとする法人・店舗向けのコミックレンタルサービスです。数百冊の小さな棚から数千冊のライブラリーラウンジまで、客層や滞在スタイルに合わせた選書と定期的な入れ替えをお手伝いします。紛失や破損の心配を抑えながら運用できる仕組みも用意していますので、宿泊施設でのマンガコーナー導入を検討されている方は、料金表・事例資料をぜひご覧ください。実際にマンガで滞在価値を高めた宿泊施設の事例も公開しています。

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