劇場版『薬屋のひとりごと』の主題歌は米津玄師「春が灯り」に決定! 『3月のライオン』から『チェンソーマン』まで、マンガ原作と歩んだ10年の主題歌をたどる

2026年12月11日に公開される『劇場版 薬屋のひとりごと 亡妃の秘宝』の主題歌が、米津玄師の書き下ろし新曲「春が灯り(はるがともり)」に決まりました。2026年10月22日に発表され、楽曲を使った本予告映像とメインキービジュアル、キャラクター相関図もあわせて公開されています。

米津玄師とマンガ原作アニメの組み合わせは、いまや珍しいものではありません。『チェンソーマン』の「KICK BACK」を思い浮かべる人も多いはずです。ただ、その接点をさかのぼると、出発点は2017年の『3月のライオン』まで戻ります。米津玄師はこの約10年、どんな作品にどんな曲を書いてきたのでしょうか。今回の「春が灯り」を最新の地点に置いて、順番にたどってみます。

目次

『劇場版 薬屋のひとりごと 亡妃の秘宝』は12月11日公開、原作者による完全新作ストーリー

劇場版は、原作者の日向夏による完全新作のオリジナルストーリーです。後宮で5年前に亡くなった妃の遺体を故郷へ返すため、猫猫と壬氏が南方の水上都市を訪れ、遺体に隠された秘密と財宝、水賊の陰謀に巻き込まれていきます。監督は長沼範裕、アニメーション制作はTOHO animation STUDIOで、猫猫役の悠木碧、壬氏役の大塚剛央らTVシリーズのキャストが続投します。

「春が灯り」は、日向夏と長沼監督との打ち合わせを経て完成した曲です。米津玄師はコメントで、脚本を読み込む一方で童謡を参照し、なかでも「チューリップ」と「あんたがたどこさ」に大きな影響を受けたと明かしています。そのうえで、人と人のあいだで生じる継承は誰かの承認や公的な手続きを必要とせず、それぞれが勝手に選び取っていくものだと語りました。予告映像では、この曲に乗せて水上都市の財宝をめぐる物語が映し出されます。

原作は日向夏の小説で、ヒーロー文庫(イマジカインフォス)から刊行されています。マンガ版は2系統あり、ねこクラゲ作画・七緒一綺構成のスクウェア・エニックス版(月刊ビッグガンガン連載)と、倉田三ノ路作画の小学館版『薬屋のひとりごと〜猫猫の後宮謎解き手帳〜』(月刊サンデーGX連載)が並行して刊行されています。シリーズ累計は4,500万部を突破しました。TVアニメ第3期も2026年10月から分割2クールで放送されており、この冬は劇場版と合わせて『薬屋』に触れる機会が続きます。

猫猫が主役になったグッズや展示の話題は、これまでにも取り上げてきました。原作者・日向夏の新作アニメ化の記事もあわせてどうぞ。

始まりは2017年、『3月のライオン』と『僕のヒーローアカデミア』

米津玄師の代表的なタイアップといえば、ドラマ『アンナチュラル』の「Lemon」や、宮崎駿監督の映画『君たちはどう生きるか』の「地球儀」を挙げる人も多いでしょう。ドラマや映画の仕事が目立つ一方で、マンガを原作とするアニメへの書き下ろしも途切れずに続いてきました。最初の2曲は、どちらも2017年に生まれています。

2017年「orion」、『3月のライオン』のエンディングテーマ

最初の接点は、NHK総合で放送されたTVアニメ『3月のライオン』です。米津玄師は第2クールのエンディングテーマとして「orion」を書き下ろし、2017年2月15日にシングルとして発売しました。ヒップホップやトラップの感覚を取り入れたサウンドで、トラックメイカーとしての新しい顔を見せた曲でもあります。

当時のインタビューで米津玄師は、羽海野チカの原作をすごく美しいマンガだと語り、もともと好きな作品だったと明かしています。原作の読者が主題歌を書くという、のちに何度も繰り返される形がここで最初に現れました。『3月のライオン』(羽海野チカ/白泉社)は、ヤングアニマルで連載されている将棋マンガです。

2017年「ピースサイン」、『ヒロアカ』第2期のオープニングテーマ

同じ2017年、4月に始まったTVアニメ『僕のヒーローアカデミア』第2期のオープニングテーマが「ピースサイン」です。シングルは2017年6月21日に発売されました。疾走感のあるギターロックで、少年マンガのアニメ主題歌としてまっすぐに鳴る1曲です。

米津玄師は原作者の堀越耕平との対談で、この曲が『ヒーローアカデミア』にふさわしいものになっているかを考える時間が長かったと振り返っています。『NARUTO』や『BLEACH』『ONE PIECE』を昔から読んできたこと、『ヒロアカ』を週刊少年ジャンプの文脈を受け継いだ新しい作品だと感じていたことも語りました。『僕のヒーローアカデミア』(堀越耕平/集英社)は全42巻で完結しています。

2019年「海の幽霊」、劇場アニメ『海獣の子供』の主題歌

2019年6月7日に公開された劇場アニメ『海獣の子供』では、主題歌「海の幽霊」を担当しました。制作はSTUDIO4℃、監督は渡辺歩です。シングルのジャケットは原作者の五十嵐大介が描き下ろしています。

海と生命をめぐる壮大な物語に寄り添う曲で、テレビシリーズの主題歌とは違い、映画の余韻ごと引き受ける役割を担いました。『海獣の子供』(五十嵐大介/小学館)は全5巻の作品で、映画をきっかけに原作を手に取った人も少なくありません。

『チェンソーマン』で始まった藤本タツキ作品との長い縁

米津玄師とマンガ原作アニメの関係を語るうえで、もっとも大きな存在が藤本タツキ作品です。テレビアニメ、劇場版、実写映画と、形を変えながら4年にわたって関わりが続いています。

2022年「KICK BACK」、TVアニメ『チェンソーマン』のオープニングテーマ

2022年10月に放送が始まったTVアニメ『チェンソーマン』のオープニングテーマが「KICK BACK」です。モーニング娘。の「そうだ!We’re ALIVE」をサンプリングした曲で、日本語詞の楽曲として初めてアメリカレコード協会(RIAA)のゴールド認定を受けました。原作の暴力性や空虚さを音にした曲として評価され、アニメ主題歌が海外で広く聴かれる流れを象徴する1曲になっています。

2025年「IRIS OUT」と「JANE DOE」、劇場版『レゼ篇』の主題歌とエンディング

2025年9月19日公開の『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』では、主題歌「IRIS OUT」に加え、エンディングテーマ「JANE DOE」も手がけました。「JANE DOE」は宇多田ヒカルをボーカルに迎えた共演曲で、発表時には大きな驚きをもって受け止められました。

米津玄師は2曲の違いについて、「KICK BACK」がジェットコースターなら「IRIS OUT」はフリーフォールだと表現しています。同じ作品に3年越しで戻り、前作と重ならない曲を書く。作品と長く付き合う書き手ならではの仕事といえます。レゼ篇が劇場から配信へ移るまでの日数を数えた記事も公開しています。

2026年、実写映画『ルックバック』ではギターで参加

2026年9月11日に公開された是枝裕和監督の実写映画『ルックバック』には、主題歌ではなく演奏者として参加しました。クレジットは「シャークキック・ギター(友情演奏)」です。「シャークキック」は主人公の藤野が連載する作中マンガのタイトルで、本編のある場面で米津玄師がギターを弾いています。

2026年6月には、NHKのサッカーテーマとして書き下ろした「烏」のショートアニメも公開されました。アニメーション制作は『チェンソーマン』と同じMAPPAで、歌詞に描かれる「漫画の世界」を思わせる鉛筆のタッチで描かれています。藤本タツキ作品を入口に生まれた制作陣とのつながりが、作品の外にも広がっていることが分かります。

原作ファンとして名乗り出た『メダリスト』、そして実写『キングダム』へ

2025年以降は、TVアニメから実写映画まで、マンガ原作の仕事がさらに増えていきます。

2025年「BOW AND ARROW」、『メダリスト』のオープニングテーマ

2025年1月4日に放送が始まったTVアニメ『メダリスト』のオープニングテーマが「BOW AND ARROW」です。このタイアップは、原作ファンだった米津玄師が制作陣に逆オファーをかけたことで実現しました。ジャケットのイラストも米津玄師自身が描き下ろしています。

『メダリスト』(つるまいかだ/講談社)は、フィギュアスケートに人生をかける少女と、夢を果たせなかったコーチの二人三脚を描くマンガです。「次にくるマンガ大賞 2022」コミックス部門1位や講談社漫画賞の受賞歴があります。読者として作品に惚れ込んだ人が主題歌を書くという、『3月のライオン』から続く形がもっともはっきり表れた例でしょう。

2026年「夜鷹」、実写映画『キングダム 魂の決戦』の主題歌

2026年7月17日に公開された実写映画『キングダム 魂の決戦』では、主題歌「夜鷹(よだか)」を書き下ろしました。ブレイクビーツを起点に篠笛など東アジアの音色を重ねた、スケールの大きなロックナンバーです。アニメだけでなく、マンガ原作の実写映画にも活動の場が広がったことを示す1曲になりました。『キングダム』(原泰久/集英社)は週刊ヤングジャンプで連載が続く春秋戦国時代の物語です。

年表で見る、米津玄師とマンガ原作作品の主題歌

ここまでの流れを年表にまとめました。テレビアニメのオープニングやエンディングから始まり、劇場アニメ、実写映画へと、関わる作品の形が少しずつ広がってきたことが分かります。

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No.年作品(媒体)原作者曲名使われ方
12017年3月のライオン(TVアニメ)羽海野チカorion第2クールED
22017年僕のヒーローアカデミア(TVアニメ第2期)堀越耕平ピースサインOP
32019年海獣の子供(劇場アニメ)五十嵐大介海の幽霊主題歌
42022年チェンソーマン(TVアニメ)藤本タツキKICK BACKOP
52025年メダリスト(TVアニメ)つるまいかだBOW AND ARROWOP
62025年劇場版 チェンソーマン レゼ篇(劇場アニメ)藤本タツキIRIS OUT/JANE DOE主題歌/ED(宇多田ヒカルとの共演)
72026年キングダム 魂の決戦(実写映画)原泰久夜鷹主題歌
82026年ルックバック(実写映画)藤本タツキー劇中でギターを友情演奏
92026年劇場版 薬屋のひとりごと 亡妃の秘宝(劇場アニメ)日向夏(原作小説)春が灯り主題歌

なぜマンガ原作の主題歌に米津玄師が呼ばれ続けるのか

年表を並べると、いくつかの共通点が見えてきます。ひとつは、米津玄師が多くの場合、起用の前から原作の読者だったことです。『3月のライオン』はもともと好きな作品で、『ヒロアカ』ではジャンプを読んできた経験を語り、『メダリスト』では自分から制作陣に申し出ました。依頼されて作品を知るのではなく、すでに作品の側にいた人が曲を書いている。この順番が、原作ファンから支持される理由のひとつでしょう。

もうひとつは、作品の世界を絵でも引き受けていることです。『海獣の子供』では原作者がジャケットを描き、『メダリスト』では米津玄師自身がイラストを描き下ろしました。今回の「春が灯り」でも、原作者と監督との打ち合わせを経て曲が仕上がっています。曲を作品に寄せるだけでなく、作り手どうしが直接言葉を交わしてから書くという進め方が、作品ごとに違う手触りの曲を生んでいます。

アニメ主題歌の座には、ここ数年、J-POPの第一線にいる書き手が次々に名を連ねるようになりました。その流れを広く追った記事も公開しています。

12月11日の公開までに、猫猫の謎解きをマンガで読み返す

劇場版は完全新作のオリジナルストーリーですが、猫猫と壬氏の関係や後宮の人間模様を知っているほど楽しめるのは間違いありません。TVアニメ第3期の放送も始まったいま、マンガ版で物語を先に追っておくのもひとつの楽しみ方です。ねこクラゲ版と倉田三ノ路版は同じ原作を描きながら構成や絵の雰囲気が違うので、読み比べてみると発見があります。

年表に並んだ作品も、主題歌を入口に原作を読むと、曲の聴こえ方が変わってきます。「orion」を聴いてから『3月のライオン』を、「BOW AND ARROW」を聴いてから『メダリスト』を読む。そんな順番で作品に触れてみるのもおすすめです。

映画とアニメ第3期が重なる冬、主題歌から原作へつなぐ棚を

この冬は『薬屋のひとりごと』の劇場版とTVアニメ第3期が重なり、作品名を目にする機会がぐっと増えます。主題歌をきっかけに作品を知った人は、次に原作を手に取りたくなるものです。米津玄師が手がけた作品だけでも、将棋、ヒーロー、海洋ファンタジー、ダークヒーロー、フィギュアスケート、歴史大作と、ジャンルは幅広く並びます。

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