不眠症の高校生に、眠り続ける幼なじみ。秋の夜長に読みたい「眠り」がテーマのマンガ5作

日が落ちるのが早くなり、夜の時間が長くなってきました。秋の夜長という言葉のとおり、この季節は本を開く時間が自然と増えます。

同時に、この時期は「眠り」そのものが気になる季節でもあります。夏の寝苦しさから解放されて、ようやくぐっすり眠れるようになる人もいれば、日照時間が短くなって生活リズムが崩れる人もいる。そこで今回は、睡眠や不眠をまんなかに置いたマンガを集めてみました。探してみると、これが思いのほか層が厚いのです。

目次

日本人は、世界でもかなり眠れていない

作品に入る前に、前提を少しだけ。厚生労働省は2023年12月21日、「健康づくりのための睡眠ガイド2023」を取りまとめました。成人は6時間以上を目安に睡眠時間を確保すること、小学生は9時間から12時間、中高生は8時間から10時間が推奨されています。

わざわざ国がガイドを作る背景には、日本人の睡眠時間の短さがあります。OECDの国際比較では、日本は加盟国のなかで最も短い部類に入り続けてきました。高齢者については逆に、寝床で過ごす時間が8時間以上にならないよう注意が呼びかけられています。長く横になっていることと、よく眠れていることは別だという指摘です。

ガイドが挙げる具体策も、案外そっけないものです。寝室にスマートフォンやタブレットを持ち込まない。できるだけ暗くして寝る。就寝直前の夜食や、眠るための飲酒は控える。つまり、眠る前の時間をどう過ごすかが問われています。マンガを読む時間というのは、まさにその「眠る前」に置かれることが多いわけです。

「眠れない」を描いたマンガ

まずは不眠の側から。眠れないという状態は、それ自体がドラマになります。夜に一人で起きている時間は、昼とは違う世界だからです。

『君は放課後インソムニア』は、不眠症の2人が天文部の部室で出会う

『君は放課後インソムニア』(オジロマコト/小学館)は、このジャンルの代表格です。眠れない高校生の中見丸太と曲伊咲が、使われていない天文台で鉢合わせするところから始まります。昼間は不調を抱えて過ごす2人が、夜の時間を共有することで距離を縮めていく。不眠を治すべき病気としてだけでなく、2人を結びつけたものとして描いているのがこの作品の芯です。

2019年から2023年まで連載され、全14巻で完結しました。テレビアニメ化に加えて、2023年6月23日には実写映画も公開されています。舞台は石川県七尾市。能登の風景がそのまま物語の空気になっていて、聖地巡礼の対象にもなりました。

能登とマンガの関わりについては、世界初のポケモン空港が開港した話題のなかでも触れています。

『よふかしのうた』は、眠らない夜を自由として描く

『よふかしのうた』(コトヤマ/小学館)の主人公・夜守コウも眠れない中学生です。ただしこの作品は、不眠を悩みとして扱いません。学校に行かなくなったコウが夜の街へ出て、吸血鬼の七草ナズナと出会う。眠らない夜は、彼にとって初めて手に入れた自由な時間として描かれます。

週刊少年サンデーで連載され、全20巻で完結。テレビアニメは第2期が2025年7月からフジテレビのノイタミナ枠で放送されました。夜更かしを肯定する物語という点で、さきほどの睡眠ガイドとは正反対の立ち位置にいるのがおもしろいところです。

『嵐士くんの抱きマクラ』は、添い寝から始まる少女マンガ

少女マンガからは『嵐士くんの抱きマクラ』(渡辺あゆ/講談社)を。弟の寝かしつけで腰を痛めた女子高生の宙が、保健室で目を覚ますと、同じベッドに見知らぬ美少年がいた。そこから、不眠に悩む月ノ瀬嵐士に添い寝を頼まれるようになる、という設定です。

別冊フレンドで連載され、全6巻で完結しました。眠れないという弱みを入り口に距離が縮まっていく構造は、『君は放課後インソムニア』とも共通します。眠りは一人の営みのようでいて、誰かと共有できるものでもある、という視点がこの作品にはあります。

「眠る」を描いたマンガ

一方で、眠ることそのものを主役に据えた作品もあります。こちらは不眠とは逆に、いかにして深く眠るかという話になります。

『魔王城でおやすみ』は、囚われの姫がひたすら快眠を追求する

『魔王城でおやすみ』(熊之股鍵次/小学館)の設定はシンプルです。魔王にさらわれて城に閉じ込められたスヤリス姫が、やることがなさすぎて、ひたすら快眠の追求に走る。魔物の毛皮で寝具を作り、魔王城じゅうを探索して寝心地のいい場所を探す。囚われの身であることを一切気にしていないのが笑いどころです。

週刊少年サンデーで連載が続いており、単行本は32巻まで刊行。テレビアニメは2020年10月から12月にかけてテレビ東京系で放送されました。安眠ファンタジーコメディという、他に例のないジャンルを作ってしまった作品です。巻数がまとまっているので、施設の棚に置くと長く読まれるタイプでもあります。

『パジャマな彼女。』は、眠り姫のモチーフをジャンプでやった

『パジャマな彼女。』(濱田浩輔/集英社)は、眠ったまま目覚めない病気になった幼なじみのまくらと、その生き霊、そしてミステリアスな先輩との三角関係を描くラブコメです。眠り姫という童話のモチーフを、週刊少年ジャンプの連載として真正面からやりました。

2012年の13号から40号まで連載され、全3巻。巻数は少ないですが、作者の濱田浩輔はのちにバドミントンマンガ『はねバド!』を手がけることになります。この作品での「眠り続ける少女」という題材選びが、いま読むとかえって印象に残ります。

「眠り」がテーマのマンガ5作

今回取り上げた作品を一覧にまとめました。巻数は2026年9月時点のものです。

スクロールできます
No.作品名著者出版社巻数眠りの描かれ方
1君は放課後インソムニアオジロマコト小学館全14巻 完結不眠症の高校生2人が夜を共有する
2よふかしのうたコトヤマ小学館全20巻 完結眠らない夜を自由として描く
3嵐士くんの抱きマクラ渡辺あゆ講談社全6巻 完結不眠の少年に添い寝を頼まれる
4魔王城でおやすみ熊之股鍵次小学館32巻(連載中)囚われの姫が快眠を追求する
5パジャマな彼女。濱田浩輔集英社全3巻 完結眠り続ける幼なじみと生き霊

眠りという、動きのない題材をどう見せるか

マンガにとって、眠りは扱いにくい題材でもあります。眠っている人物は動きません。喋りもしません。バトルにもスポーツにも変換できない状態を、絵と言葉で何十ページも持たせる必要があります。今回の5作は、そこをそれぞれ別のやり方で越えています。

『君は放課後インソムニア』が用意したのは、天文台という舞台でした。眠らない代わりに星を見る。動かない2人の頭上で、星のほうが動いてくれます。『よふかしのうた』は夜の街そのものを見せ場にしました。自動販売機の光、誰もいない歩道橋、コンビニの白い明かり。眠らない時間の風景を、それ自体が魅力になるまで描き込んでいます。

『魔王城でおやすみ』はもっと直接的で、眠るまでの過程をぜんぶギャグにしました。寝具を作るために魔物を狩り、枕の硬さを検討し、城の各所で寝心地を比較する。眠りという結果ではなく、そこへ向かう手間を物語にしたわけです。『嵐士くんの抱きマクラ』の場合は、眠る2人のあいだの距離そのものが見せ場になります。動かない題材だからこそ、作家の工夫がはっきり出る。読み比べるとそこがおもしろい部分です。

なぜ「眠り」はマンガの題材になりやすいのか

こうして並べてみると、眠りという題材には2つの使い道があることが分かります。ひとつは、眠れない時間を「昼とは別の世界」として使うこと。学校にも仕事にも縛られない時間だからこそ、普段は出会わない人と出会えるし、昼間は言えないことが言えます。『君は放課後インソムニア』も『よふかしのうた』も、この構造を使っています。

もうひとつは、眠りを目標そのものにすること。『魔王城でおやすみ』のスヤリス姫は、自由も脱出も求めず、ただ気持ちよく眠ることだけを追いかけます。ふつうなら主人公の動機になりにくい欲求を、あえて中心に据えたところに新しさがありました。

どちらにも共通するのは、眠りが誰にとっても身近だということです。特別な能力も知識もいらず、読んだその晩から自分の話として考えられる。厚生労働省がガイドを作らなければならないほど日本人が眠れていないのだとすれば、この題材はこれからも増えていくのだろうと思います。

秋の夜長に、眠りの話を読む

眠る前の時間にマンガを読むなら、眠りそのものを描いた作品を選ぶという遊び方があります。『君は放課後インソムニア』を読んでから眠りにつくと、夜という時間の感じ方が少し変わります。

完結している作品が多いのもこのジャンルの利点です。『よふかしのうた』は全20巻、『君は放課後インソムニア』は全14巻、『パジャマな彼女。』にいたっては全3巻。中古の全巻セットなら、秋のあいだに読み切れます。

眠りの前後にある時間こそ、施設が持っている

ここまで読んで、ぴんときた施設の方もいるかもしれません。温浴施設もサウナもホテルも、お客様が最終的に求めているのは「よく眠れること」だからです。お風呂で温まったあとの休憩処、サウナで整えたあとのリクライニングスペース、チェックイン後の部屋。どれも眠りの直前にある時間です。

その時間に何を置くかで、滞在の長さは変わります。スマートフォンを見ていると目が冴えてしまいますが、紙のマンガならそうなりません。厚生労働省のガイドが「寝室にスマートフォンを持ち込まない」と書いているのは、まさにそういうことです。サウナと相性のいいマンガについては、『サ道』を起点にした記事でもまとめています。

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