『こち亀』秋本治先生デビュー50周年! 秋本先生が描いた日本のカルチャーを読み解く

休載なく『こち亀』を40年連載してきた漫画家
デビュー作であり代表作でもある『こちら葛飾区亀有公園前派出所』が、1976年6月に読切として掲載された後、同年9月には連載がスタートしました。
当初は「山止たつひこ」名義だったものを、本名の「秋本治」に改めて現在に至ります。
1976年の連載開始から連載に一区切りをつけた2016年までの40年間、集英社の「週刊少年ジャンプ」で一度も休むことなく連載されました。
40年にわたる連載は、少年漫画においては現在も前人未到の大記録です。
連載終了後も不定期で新エピソードを発表しており、2027年には1996年以来のアニメ放映が決まっています。
その後は、新たな作品の制作にも取り組み『ファインダー-京都女学院物語-』『いいゆだね!』『TimeTuberゆかり』などを発表。
2026年を迎えた現在も、創作意欲が衰える気配はまったく見られません。
ここでは、日本の昭和・平成カルチャーを描いた『こち亀』『ファインダー-京都女学院物語-』『TimeTuberゆかり』の3作を取り上げ、秋本治作品の魅力を掘り下げていきます。
秋本治先生の漫画3選
■『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(秋本治/1976~2016年 ※連載終了時、以降は不定期)
タイトルともなっている、東京の下町にある亀有公園前派出所を舞台に、お金儲けとギャンブルが大好きで破天荒な行動を繰り返す警官・両津勘吉が主人公。
その両津が、後輩である中川圭一と秋本麗子、厳格で堅物な上司である大原大次郎など個性豊かなキャラクターたちを振り回しながら、周囲を巻き込んで騒動を起こす、コミカルな日常を描いた人情ギャグ漫画です。
デビューから40年という長期連載を達成しており、秋本治先生の代表作と聞かれると、満場一致で『こちら葛飾区亀有公園前派出所』と答えるのではないでしょうか。
連載初期こそ、どのキャラクターにも粗暴で短気な面や型破りな面が強調されがちでした。しかし、年月が経過して作者の画風が変化するとともに、そういった描写は少なくなり、後述する世間のサブカルチャーや当時の社会背景・社会問題、生活様式などを取り入れるようになっていきました。
現在も不定期で新エピソードを発表しており、連載終了時の話を収めた200巻では1940話、コミックス未収録の話、他誌出張連載の話も含めると約2000話近くあるまさに超長寿作品です。
■『ファインダー -京都女学院物語-』(秋本治/2017~2018年)
京都府亀岡市を舞台に、女子高生が送る何気ない日常を描いた青春物語です。
主人公は、京都女学院高等部写真部に所属する、2年生の多田楯鷹狐(たたた・たかこ)、枢千鳥(くるる・ちどり)、野々衲燕(ののの・つばめ)、笹咲鈴芽(さささき・すずめ)の4人。
ある日、写真部の部長から夏のフォトコンテストに入賞するよう迫られます。
鷹狐たち4人は、最初あまりやる気がありませんでした。しかし、亀岡市内や京都市内へ撮影で出かけていくうちに、写真の面白さに目覚めていき、京都最大の祭りである祇園祭の山鉾巡行、鍬山神社、地元である亀岡市の原風景など、さまざまな風景を自分のファインダーで切り取っていくさまを描いた物語です。
もともとは『こちら葛飾区亀有公園前派出所』連載終了直後からはじまった「4誌で新連載」プロジェクトの中の1作(他は『Mr.Clice』『いいゆだね!』『BLACK TIGER』)で、「週刊ヤングジャンプ」誌上で2017年10号~2018年17号にかけて4回掲載されました。
■『TimeTuberゆかり』(秋本治/2023年~)
主人公は東京都・お台場にあるタワーマンションに住む、女子高生の青山ゆかり。私立青海高等学園在学の17歳で、学業成績はトップを維持している優等生です。
しかし、父親はだらしなく、借金を残したまま蒸発。物語はヤクザに、その父親が残した借金の返済を迫られるところからはじまります。
ヤクザからは借金返済を迫られた上に、自宅マンションを競売にかけると言われて途方に暮れる中、家の押し入れから時計のような形をした「デウス・エクス・マキナ」を見つけます。それを手にしたところ、機械が動き出して気がついたら1982年のお台場付近へとタイムスリップ。
1982年当時のアーケードゲームなどの風景をスマホに収め、現代に戻ってYouTubeにアップすると、バズったことで借金を完済します。
その後も「デウス・エクス・マキナ」の力で、昭和時代の日本にタイムスリップ。現代の知識と動画配信を使って、過去の歴史や文化を伝えていく、今どきの女子高生と昭和レトロを求めての時間旅行を描いた物語です。
秋本治先生が3作品で描いた昭和・平成カルチャー
1976年の週刊少年ジャンプ42号で『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の連載がスタート以降、同作を40年1度も休載することなく描き続け、連載終了後も『ファインダー-京都女学院物語-』や『TimeTuberゆかり』などの作品を残し続けている秋本治先生。
ここでは、本稿で取り上げた作品で描かれた昭和・平成カルチャーについて触れていきます。
1. 進取の精神にあふれる『こちら葛飾区亀有公園前派出所』
『こちら葛飾区亀有公園前派出所』は、昭和の後半に連載が始まり、平成初期から平成後期まで連載が続きました。
作品の時代観も時代に合わせて緩やかに変化し続けるとともに、秋本先生が好きな名車や鉄道、軍事・戦車、ゲーム、ガジェットなどがたくさん出てきます。
その中で、今では当たり前のように出回っているサービスを、まるで予想していたかのように20~30年以上前に描いている作品もたくさんあります。
そこから、冗談交じりに一部の読者が言っていたのが「こち亀は時代を予言している」というものです。
ここでは、その中の一部を紹介します。
・二次元コード決済
129巻 「驚異のシルバーIT(アイテー)!の巻」(初出 2002年)
いわゆるガラケー上に表示されたバーコードを読み取っている描写があります。当時はまだ実用的とは言い難いものでした。
しかし、スマートフォンが普及しはじめ、2018年にPayPayが登場すると、普及が一気に進み現在では2次元コード決済の取引額も10兆円を超えるまでに急成長を果たしました。
・ビデオ通話、オンライン会議システム
59巻 「テレビでこんにちは!の巻」(初出 1998年)
時給がいいことから、通信関連のアルバイトを見つけた両さんが会場に行くと、モニター付きテレビカメラにつながれ、向かい合った人同士が画面越しに飲み会をやっていました。
現在でいうところのZoomやTeamsなどを使ったオンライン会議システムが、これに該当しそうです。
あとは、ビデオ通話・オンライン会議システムアプリでいう「背景加工機能」のように、顔出しパネルで自分の格好・経歴を盛れるようになっていた描写も、大きなポイントですね。
2. フィルムカメラへのこだわり
『ファインダー -京都女学院物語-』で描かれているのは、デジタルカメラ全盛の時代にあえてフィルムカメラを使う女子高生たちの姿です。
ニコン F3やオリンパス OM-1など、昭和のカメラ史に残るであろう名機を、レンズの形状やダイヤル、機種の質感に至るまで、緻密なタッチで描かれているとともに、京都の三大祭りのひとつである祇園祭の山鉾巡行や出雲大神宮、保津川、雪の金閣寺など、京都市・亀岡市の日常の風景や地方都市の空気が描かれています。
秋本先生の作品としては珍しく、関西を舞台とした作品で、時期的に平成末期~令和へとつながる地方カルチャーのドキュメンタリー的な役割があるともいえるでしょう。
3. 今ドキの女子高生と昭和レトロのギャップ
『TimeTuberゆかり』には、1980年代に流行したアーケードゲームやテレビゲーム、1960年代に流行したリカちゃん人形など、昭和時代の少年少女が夢中になったさまざまなアイテムを巡り、令和の女子高生・青山ゆかりが昭和にタイムスリップして冒険するさまが描かれています。
その中でも特に詳しく描かれているのがプラモデルで、その当時主流だったブリキ製の玩具が少しずつプラスチック製へ置き換えられていく歴史が、作品内で紹介されています。
最初期は海外製が中心だったプラモデルでしたが、国内メーカーも製造するようになり、さらにモーターの進化によって「動く模型」が登場する過程が、秋本先生の濃密なうんちくとともに紹介されているさまは、まるで『こち亀』のホビー回をスピンオフしているようです。
まとめ – ギャグ漫画の可能性を大きく拡張した漫画家
今年で漫画家デビューして50年、12月11日の誕生日を迎えると74歳になる秋本治先生。
先述したとおり『こちら葛飾区亀有公園前派出所』は、1976年に連載を開始してから2016年まで40年間休載のないどころか、原稿を1度も落とさずに連載最終回を迎えています。
基本的には一話完結の日常ギャグ漫画ですが、そのときどきの世相や社会風俗やトレンド、警察・下町の人情を取り入れるだけでなく、模型やミニカー、ミリタリー、最新ガジェットなど、マニアックなホビーの知識を広め、大人にとっては趣味の世界に入る敷居を下げてきました。
現在は、連載中の『TimeTuberゆかり』『Mr.Clice』の他、年1回のペースで新エピソードを発表している『こちら葛飾区亀有公園前派出所』を抱えながら、定期的に読切作品を発表し続けるそのエネルギーは称賛に値します。
これからも、くれぐれも体調に気をつけて描き続けてもらいたいものです。
(執筆: なつめれいな)
