TOP > スタッフブログ > 2023/12/08

この間取り図、どこかおかしい…？異色の不動産ミステリー『変な家』

皆さん、不動産物件の「間取り図」をじっくり見た経験はあるでしょうか？マイホーム購入時、または賃貸物件を探す時には必ず見ることになる、各部屋の広さや配置が描かれた図面のことですね。

家賃優先だから間取りはあまり気にしない、という人もいるかもしれませんが、今回はその間取り図にとことんフォーカスした本格派ミステリー『変な家』をご紹介します。

子供部屋なのに窓がない……？

舞台は現代日本。主人公の「私」は氏名が明かされませんが、オカルト専門フリーライターという珍しい仕事をしている人物です。この「私」のもとに、マイホームを購入しようと考えている知人が奇妙な相談を持ち込みます。

閑静な住宅街にあって築年数も浅い、中古ですがとても良さそうな物件だといいます。しかし間取り図を見ると、ちょっと違和感が。家の1階にどこからも入れない用途不明な「謎の空間」があるのです。不動産屋に聞いてもよくわからないと言われるだけで、なんとなく不気味だから購入に踏み切れないという話でした。

間取り図を預かった主人公は、以前から交流がある建築士にこれを質問。建築士はわずかな情報から名探偵のように「2階の子供部屋に窓がない」「トイレの場所が不自然」「シャワー室と浴室が別々にある」「浴室にも窓がない」「住んでいた家族の人数と寝室の数が合わない」など、この家の変なところを次々と指摘します。

最初はささいな違和感だったのが、次第に膨らんでいく嫌な予感……そんなやりとりから始まり、ゾッとする展開を見せていく物語です。

偶然か必然か!? 点と線がつながっていく巧みなストーリー

本作がおもしろいのは、何といっても他にはない「間取り図」をメインに進んでいくユニークな物語の構成でしょう。

特にキモとなる人物は主人公でなく、ミステリー＆オカルトが大好きな建築士のほうです。まず本業の専門知識で普通の家ならありえない設計のおかしさを見つけ、そこからミステリー方面に推論を広げていきます。

問題の家は違和感の多くが子供部屋に集中しているので、「この家では子供を閉じ込めて虐待していたのでは？」という仮説にたどりつきました。

これも単なる妄想に過ぎないなと思われていましたが、ふと主人公が1階と2階の間取り図を重ねてみると、新たな事実が浮かび上がります。最初に相談してきた知人が気にしていた「謎の空間」が、2階の子供部屋の位置とぴったり重なるのです。もし謎の空間が１階と2階をひそかに橋渡しする移動スペースだったら？その先にある浴室は窓がないから、何が起きても外部から目撃されない……

まさか、この家は最初から「子供を使って浴室で人殺しさせるため」に設計されたのでは？

わずか第2話の時点でここまでゾクッとさせる話にする手腕はお見事としか言いようがありませんね。

もちろんこんな荒唐無稽な話があるわけない、非現実的だということでその場はお開きになるのですが、物語はさらにここから急展開。

後日、問題の家のすぐ近くにある雑木林でバラバラの遺体が発見されたというのです。

なぜか見つからない遺体の左手首。その家の住人に夫が殺されたかもしれない、と主人公の調査活動に加わってくる女性。女性が見せてくれた、もう1つの「殺人ハウス」の見取り図……謎が謎を呼び、やがて無関係と思われていた別々の事象が同じところに収束していく。先の展開がまったく予想できない、すばらしいミステリーに仕上がっています。