お月見シーズンに読みたい! 「月」にまつわる印象的な漫画3選

月見団子よりも月見バーガー? 現代のお月見事情
今年のお月見は9月25日、金曜日の夜です。中秋の名月とは、1年でもっとも美しく見える秋の月を愛でる行事。日本のお月見は中国の中秋節が起源とされ、平安時代に貴族が月を眺めて歌を詠み、酒を楽しむ風流な宴として広まりました。江戸時代には庶民の季節行事として定着し、ススキや月見団子をお供えする現代の形へと変化していったのです。
とはいえ、縁側や庭のある家が減少した現代の住宅事情で、本格的なお月見をするのは難しいもの。高層ビルに囲まれて月が見えにくかったり、ベランダに出るくらいしかできなかったりするのが現実です。だからこそ、月見団子の代わりに、月に見立てた丸いものを味わうという人も多いのではないでしょうか。特に、1991年の登場以来すっかり秋の定番となった「月見バーガー」はお馴染みですよね。
そこで今回は【お月見シーズンに読みたい!心に残る漫画】をテーマに、『超かぐや姫!』『宝石の国』『MOONLIGHT MILE』の3作品を紹介します。今年の秋は、漫画でもうひとつのお月見を楽しんでみませんか。
お月見シーズンに読みたい漫画3選
■『超かぐや姫!』(原著:スタジオクロマト、スタジオコロリド、作画:米田タロウ/2026年~)
竹取物語と現代のエンタメ最前線であるVTuberや音楽などの文化を取り入れて、大胆にアレンジした作品です。原作は、Netflixで世界独占配信されたオリジナルアニメ映画。大きな反響を受けて、1週間限定の劇場公開から100館超えの上映が実現。社会現象級のヒット作となりました。本作はそのコミカライズ版にあたります。
主人公の酒寄彩葉は、文武両道・才色兼備な17歳の女子高生。勉学とアルバイトに追われるギリギリの日々のなか、彼女の息抜きは仮想空間ツクヨミで推しのライバーを追いかけることでした。ある日の帰り道、七色に光るゲーミング電柱から出てきた赤ん坊を放っておけず連れ帰るも、その正体は月からやって来た姫・かぐや。自由奔放でわがままな彼女に誘われ、彩葉はツクヨミでのかぐやのライバー活動を支えることになります。彩葉がプロデューサーとして曲を作り、かぐやがそれを歌う。そうして2人は、少しずつかけがえのない相棒になっていくのです。
『竹取物語』をベースにした作品は、これまでにも数多く生まれてきました。その中で本作をユニークたらしめているのが、VTuber文化を取り入れたことだと思います。本当の姿は別にあり、その正体を知らないまま多くの人に愛される。いつか姿を消してしまうかもしれない相手を、それでも応援せずにはいられない。かぐや姫が抱えていたものは、そのままライバーとファンの関係に重なるなと、いちVTuberリスナーである自分は感じました。
竹取物語は姫が月へ帰り、残された人々が空を見上げるところで幕を閉じます。1巻ではまだそこまで描かれていませんが、2人がその結末とどう向き合うのか。原作映画では終盤がやや駆け足に感じられただけに、上映時間に縛られないコミカライズ版が彩葉とかぐやの心情をどこまで描いてくれるのか。そこが見どころとなってきそうです。
■『宝石の国』(市川春子/2012~2024年)
宝石の身体を持つ人型の存在たちが、自らの存在と世界の謎に迫っていくSF作品。2017年には3DCGでアニメ化され、独自の世界観と映像美が熱狂的なファンを生んでいます。完結後の2025年には第45回日本SF大賞と第56回星雲賞コミック部門をあわせて受賞するなど、漫画としてもSFとしても高く評価された作品です。
人類が滅びた遥か先の未来。宝石から生まれた28人は、金剛先生のもとで共同生活を送っていました。とはいえ安寧とはほど遠く、彼らは自分たちを攫おうと月から襲来する「月人」との戦いを繰り返しています。主人公のフォス(フォスフォフィライト)は仲間の中でも特に脆く、戦いにもほかの仕事にも向かないと見なされている最年少の宝石。自分もみんなの役に立ちたいと願うフォスに初めて任された仕事は、世界のあらゆる事柄を記録する博物誌作りでした。やがてフォスは、その仕事を通じて仲間たちだけでなく、未知の生き物や世界そのものについて、これまで知らなかった事実や謎に触れていくことになるのでした。
自分がこの作品を知ったのは、やはりアニメからでした。3DCGで描かれた宝石たちの質感は本物さながらで、光の透け方ひとつに見入ってしまうほど。しかし、美しく可愛らしい彼らが身体を砕かれ無慈悲に攫われていく残酷さが同居する世界と謎に満ちた物語に惹かれ、気づけば原作を買っていました。
そして本作を語るうえで外せないのが、月の描かれ方です。月といえば、美しさにせよ不吉さにせよ、地上から一方的に眺めてイメージを重ねるもの。古今東西の創作でも舞台装置として活用され、色や大きさで物語をいかようにも演出してくれる存在です。しかし本作の月は、宝石たちを狙って襲来する月人が拠点としている場所。千手観音、菩薩、天女をはじめとした優美な姿にもかかわらず、容赦なく宝石たちを砕いて連れ去っていきます。見上げた先にあるのは、こちらへ手を伸ばしてくる脅威。同じ月でも、こうも印象が変わるのかと驚かされました。
■『MOONLIGHT MILE』(太田垣康男/2000年~)
世界の名峰を制してきた2人の若き天才クライマーが別々の道で宇宙を目指し、やがて月面資源をめぐる国家間の対立のただ中で、それぞれの信念を貫こうとする人間ドラマを描いた近未来SFです。2007年にはWOWOWで2シーズンにわたってアニメ化され、リアルな宇宙描写と骨太な人間模様が支持を集めました。2011年に第2部の完結を区切りとして長らく休載していましたが、約10年ぶりに連載を再開。2026年4月からは、第3部のフルカラー連載が再始動しています。
日本人の猿渡吾郎とアメリカ人のジャック・F・ウッドブリッジ(ロストマン)は、大学時代から世界の高峰を制覇してきたザイルパートナー。その終着点として冬季エベレストに挑んだ2人は、頂を目前にして国際宇宙ステーション(ISS)と月を目にし、次に目指すべき場所を宇宙と定めます。折しも、ちょうど月に核融合燃料となるヘリウム3が大量に存在することが判明。アポロ11号以来となる、人類の月への挑戦が動き出そうとしていました。吾郎は大手建設会社に就職し、数々の資格を持つビルディングスペシャリストとして現場を渡り歩く道へ。ロストマンは米軍に入隊し、海軍のエースパイロットとして頭角を現していきます。やがて世界は月面資源をめぐる本格的な宇宙開発競争の時代へ突入し、別々の道を歩んでいた2人が、それぞれのやり方で月へ動き始めるのでした。
フルカラー完全版1巻を読んで、まず圧倒されました。1巻の時点でさえ、気づけば映画を1本観終えたような感覚になっているのです。特に驚かされたのが、宇宙開発競争の裏で起きる国家間の駆け引きを現実の情勢と地続きに感じさせる構成力。一体どれくらい勉強し、取材されたのか……。連載開始から中断を挟んで約26年。それだけの歳月が流れてなお、描かれる対立の生々しさは少しも古臭さを感じません。骨太な人間ドラマと合わせて、漫画という媒体が到達した最高峰の作品だと思います。これまで手に取ってこなかったことを後悔するくらい、引き込まれました。続きが気になって仕方がない今、連載再開してくれたことは心から嬉しく思います。
そして現実のほうも、物語に追いつきつつあります。2026年4月に、NASAのアルテミスIIが打ち上げられ、アポロ17号以来約53年ぶりに人類が月を周回しました。目指すは2028年の有人着陸。見上げる先にある月は、もう眺めるだけの場所ではなくなりつつある。本作が20年以上前から描いてきた光景に、現実が少しずつ重なってきていること。それはもちろんワクワクすることではありますが、同時に国際情勢についても関心を持っていかなければと強く感じました。
3つの漫画で学べるポイント
月は、人類にとっていちばん身近な天体です。なのに、手は届かない。だからこそ人は古くから、そこにさまざまな意味を託してきたのかもしれません。今回紹介した3作品を並べてみると、同じ月でもまるで違う顔を見せてくれます。
『超かぐや姫!』と『宝石の国』は、どちらも月から超常の存在が地球へやって来る物語である点は共通しています。しかし、かぐやは何らかの事情を抱えて地球へやって来たフレンドリーな存在なのに対し、月人は宝石たちを連れ去るために襲来する明確な敵として描かれています。同じ月から来た存在でも、味方か敵かでこれほど印象が変わるのはおもしろいですね。
そして、『MOONLIGHT MILE』は人が月を目指す物語。眺める対象でも恐れる対象でもなく、資源をめぐって奪い合う戦場としての月。ロマンよりも生々しい利権争いが渦巻く姿は、アルテミス計画が進む今だからこそ重くのしかかってきます。
それぞれの作品を読み比べると、月が創作においてどれだけ多くのものを引き受けてきたかが見えてきます。月に何を見るかは作品によって異なりますが、その時代を生きる人の関心を映すものであることは変わりないなと思いました。平安の人々が月に情緒を重ねたように、現代の作品では月は別れや脅威の象徴であったり、現実と地続きの争いの場であったり。3作品を読んだ後に月夜を見上げると、これまでと違った見方ができるかもしれません。
まとめ – 今年のお月見は漫画と共に
歴史を振り返れば、月はただ空に浮かぶものを眺めるだけの存在ではありませんでした。日本最古の物語『竹取物語』でかぐや姫が帰っていった場所であり、人類が長いあいだ手を伸ばし続けてきた憧れの対象でもあります。千年前の人々が月に物語を見出したように、現代の作り手もまた、それぞれの月を描いてきました。そして今、アルテミス計画によって人類は再びその場所へ向かおうとしています。月をめぐる物語は、まだまだ終わっていないのです。
2026年の十五夜は、9月25日の金曜日。お団子を用意するもよし、月見バーガーを買ってくるもよし。でも、ただ夜空を見上げるだけではもったいない! 月を眺める前でも後でも、せっかくなら今回取り上げた作品を読んで月に思いを馳せてみてほしいです。
(執筆: 森野沙織)
