ホテルのレベニューマネジメント入門——「同じ部屋を日によって違う料金で売る」の始め方
「うちは1泊8,000円で統一している」——この料金設定は、毎日数万円の利益を逃している可能性があります。
金曜日と火曜日で同じ料金。花火大会の日と何もない平日で同じ料金。GWと梅雨時で同じ料金。需要が高い日に安く売り、需要が低い日に高く売っている状態は、ホテル経営で最も大きな「見えない損失」です。
レベニューマネジメントとは、「同じ部屋を、需要に応じて異なる料金で販売し、売上を最大化する」考え方です。航空業界で発展した手法ですが、現在はホテル業界の標準的な経営手法となっています。
本記事では、レベニューマネジメントをまだ導入していない中小ホテル・旅館の経営者向けに、基本の考え方と「明日から始められる第一歩」を解説します。
なぜ「固定料金」は損をするのか
ホテルは「在庫が消える」ビジネスです。今夜売れなかった客室は、明日売ることができません。航空機の空席と同じで、出発してしまえば価値はゼロです。
この特性があるため、「需要が高い日はADRを上げて利益を最大化し、需要が低い日はADRを下げてでも稼働率を確保する」ことが合理的な戦略になります。
30室のホテルで考えます。固定料金8,000円で年間稼働率70%の場合、年間客室売上は30室×365日×70%×8,000円=6,132万円。
同じホテルが、需要の高い日(年間120日)は10,000円、通常日(年間150日)は8,000円、需要の低い日(年間95日)は6,500円に設定し、全体の稼働率が75%に改善した場合。高需要日の売上は30室×120日×85%×10,000円=3,060万円。通常日の売上は30室×150日×75%×8,000円=2,700万円。低需要日の売上は30室×95日×65%×6,500円=1,208万円。合計6,968万円。
差額は年間836万円。料金を「変える」だけで、追加投資なしにこれだけの差が生まれます。
レベニューマネジメントの3つの基本原則
原則① 需要に応じて料金を変える(ダイナミックプライシング)
需要が高い日は料金を上げ、低い日は下げる。これがレベニューマネジメントの核心です。「値上げ」ではなく「適正価格への調整」と捉えてください。需要が高い日に8,000円で売ることは「安売り」であり、需要が低い日に8,000円で売ることは「高すぎて売れない」状態です。
原則② RevPARで総合判断する
ADR(客室単価)を上げても稼働率が下がれば意味がありません。逆に稼働率100%でもADRが低ければ利益は残りません。この両方を1つの数字で判断するのがRevPAR(=ADR×稼働率)です。料金変更の効果は、必ずRevPARで検証してください。RevPARの詳しい計算方法は「RevPAR・ADR・OCC・GOPの計算と実務活用」で解説しています。
原則③ データに基づいて判断する
「なんとなく週末は高くする」ではなく、過去の稼働データ・地域のイベントカレンダー・競合の料金動向を根拠にして料金を決めます。最初は完璧なデータ分析ができなくても、「過去1年の曜日別稼働率」を確認するだけで、料金設定の精度は大きく向上します。
【実践】明日から始める4ステップ
ステップ1 過去の稼働データを曜日別・月別に整理する
PMSまたはExcelで、過去12ヶ月の「曜日別稼働率」と「月別稼働率」を集計してください。
この集計で見えることは、「金曜・土曜は90%以上埋まるのに、火曜・水曜は50%を切る」「8月と12月は稼働率80%超だが、1月と6月は60%以下」といったパターンです。このパターンが料金設定の出発点になります。
ステップ2 日程を3段階に分類する
過去データをもとに、すべての日程を以下の3段階に分類します。
A日程(高需要)
稼働率80%以上が見込める日。週末、祝前日、GW、お盆、年末年始、地域の大型イベント日など。
B日程(通常)
稼働率60〜80%が見込める日。通常の平日、季節の変わり目など。
C日程(低需要)
稼働率60%未満が見込める日。閑散期の平日、大型連休の谷間など。
ステップ3 段階別の料金を設定する
現在の固定料金をB日程(通常)の基準料金とし、A日程は+15〜30%、C日程は-10〜20%を目安に設定します。
現在の固定料金が8,000円の場合、A日程は9,500〜10,500円、B日程は8,000円(現行通り)、C日程は6,500〜7,000円が出発点です。
最初から大幅に変えず、まずA日程を+1,000円、C日程を-1,000円程度から始め、予約の入り具合を見ながら調整するのが安全です。
ステップ4 効果をRevPARで検証する
料金変更後、1ヶ月ごとにRevPARを計算し、変更前と比較します。RevPARが上がっていれば料金戦略は正しい方向。下がっていれば調整が必要です。
A日程の料金を上げた結果、稼働率が大きく下がった場合は値上げ幅が大きすぎます。逆にA日程の稼働率がほとんど変わらなければ、もう少し上げる余地があるということです。
よくある誤解と注意点
「値上げしたらお客さんが来なくなる」
需要が高い日の値上げは、稼働率にほとんど影響しません。なぜなら、その日に泊まりたい人が多いから需要が高いのです。花火大会の日に1,000円上げても、泊まりたい人は泊まります。問題は「需要が低い日に高い料金を維持すること」で、これは稼働率を確実に下げます。
「OTAに複数の料金を設定するのが面倒」
サイトコントローラー(TLリンカーン、手間いらず、ねっぱん!++等)を使えば、1回の操作で全OTAの料金を一括変更できます。PMSと連携していればさらに自動化が可能です。
「うちは小規模だからレベニューマネジメントは必要ない」
むしろ小規模施設ほど効果が大きいです。30室のホテルで1室あたり1,000円の最適化ができれば、年間では数百万円の差になります。高額なレベニューマネジメントシステムがなくても、Excelと過去データだけで始められます。
「常連客に対して料金が変わるのは失礼ではないか」
航空券やスポーツの観戦チケットが日によって料金が違うことに、誰も違和感を持ちません。ホテルも同じです。ただし、常連客に対しては「直予約限定の特別料金」や「リピーター優待」を別途用意することで、料金変動の不満を緩和できます。
まとめ
レベニューマネジメントは「値上げ」ではなく「適正価格への調整」です。過去の稼働データを曜日別に整理し、A・B・C日程に分類し、段階別の料金を設定する。この3ステップだけで、追加投資なしに年間数百万円の売上改善が見込めます。
まずは今月の「曜日別稼働率」を集計するところから始めてみてください。
需要予測の具体的な方法は「ホテルの需要予測と料金カレンダーの作り方」で、料金戦略の実践は「ホテルの早割 vs 直前割引」で詳しく解説しています。
