夏の夜に読みたい! 最高に美しい花火が描かれる漫画3選

花火を見る側と作る側、それぞれの物語
夜空に咲く花火を見上げるとき、私たちの多くは見る側にいます。
一方で、その美しい一瞬のために、何か月もかけて花火を仕込む作る側の人たちもいます。
どちらが欠けても成り立たない、夜空の芸術。
しかし、同じ花火でも、どちらの視点から描くかで物語の表情はガラッと変わります。
今回は、花火を見る側と作る側、それぞれの視点で花火を描いた3作を紹介していきます。
■『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(楓月誠(漫画)、岩井俊二(原作)/2017年~2018年)
海辺の町を舞台に、少年と少女が花火大会の一日をループする、甘酸っぱくほんの少し苦いラブストーリーです。
本作は、名匠 岩井俊二監督の名作ドラマを下敷きに、アニメ映画や小説などさまざまなメディアミックスが展開されました。今回紹介する漫画版は、アニメ映画を補完する内容となっています。
夜に花火大会を控えた夏休みの登校日。友人の祐介とプール掃除をすることになった典道は、クラスメートのなずなと遭遇。なずなは水着姿でプールに現れますが、どうやら部活ではなく、一人で時間をつぶしているようでした。
話の流れで、典道と祐介は50メートル競争をすることに。そこに乱入してきたのが、なずな。「あたしが勝ったらなんでも言うこと聞いて」と言い出し、3人で水泳対決することになります。
実は、典道も祐介もなずなのことが好きで、密かに思いを寄せていました。そんな三人の思いが交錯する中で行われた勝負。勝ったのはなずな。2位が祐介。典道はプールで足をぶつけてしまったために3位。
なずなは“勝った人へのお願い”として、祐介を花火大会に誘います。しかし祐介は怖じ気づき、その約束から逃げてしまいます。
水泳勝負で足をケガした典道は、祐介の実家の病院へ治療に訪れます。そこで典道は、祐介を迎えに来たなずなと再会。祐介にすっぽかされたことがわかったなずなは病院を出ますが、典道は彼女を追いかけます。
なずなは「もし島田くん(典道)を誘ってたらどうした?」と問いかけます。そこで典道は、浴衣姿でキャリーカートを引く“旅立ち”のような格好に違和感を覚えました。
母の再婚と転校を前に、家出をして町を出ようとしていることを打ち明けるなずな。しかし、そんななずなを追いかけてきた母親と再婚相手の男性に連れ戻されてしまいます。
もしもあのとき、水泳勝負に勝っていたら――。なずなのキャリーケースから落ちた不思議な玉を投げると、水泳勝負の場面へと時間が巻き戻ります。典道はなずなを救おうと、「もしも」をやり直せる不思議な玉の力で同じ一日を繰り返し、もがいていくことになるのです。
本作の鍵となっているのが、打ち上げ花火の形。「打ち上げ花火は横から見ると丸いのか、平べったいのか」という素朴な疑問が作中で何度も繰り返されます。実は、この花火の形が、2人を取り巻く世界と結びついています。
繰り返される1日の果て、2人が最後に見た打ち上げ花火の形は果たして……。
漫画版はアニメ映画版をほぼなぞった作りですが、アニメでは語られなかったその先が、ラストに描き足されています。私は、そこに小さな希望を感じました。
少年と少女の恋の行方。見る側から描かれた花火の美しさとともに、ぜひ見届けてみてください。
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■『玉屋一代 花火心中』(関達也/2017年)
江戸時代の花火師・玉屋壱兵衛の生き様を描いた職人ドラマです。
打ち上げ花火のかけ声でもお馴染み、「たーまやー」「かーぎやー」の由来ともなった、二大花火師・玉屋と鍵屋の歴史がベースの重厚で熱いフィクション。隠れた名作として評価されています。
江戸の二大花火師の一人・玉屋壱兵衛。幼い頃に火事に遭い、そのまぶたに焼き付いた『紅い華』の花火に魅了されます。その花火を自らの手で再び咲かせるため、老舗の煙火商い『鍵屋』に奉公へ。
しかし、調合は花火にとっての肝。「鍵屋の血族にしか調合は伝えぬ」と大旦那の鍵屋弥兵衛に一喝された壱兵衛は、新興の煙火商い『玉屋』へ店替えすると宣言し、鍵屋と決別します。
花火作りは、時に死と隣り合わせの稼業。弟子や仲間との出会いと別れを経て、自分の花火を追い続ける壱兵衛。大舞台・隅田川の川開きの夜空に咲く最後の仕掛けとは――。
江戸の花火師・壱兵衛の熱い生き様は、とにかく芯が一貫していて格好良いの一言。最後までブレることがありません。
喧嘩と火事は江戸の華とはよく言ったもの。考えてみれば、私たちが見上げる花火にも、命を懸けて美しさを追い求めた作り手たちの想いが宿っているのですよね。
江戸を生きた壱兵衛が追い求めた花火と、現代を生きる我々の見る花火大会の夜空を重ね合わせて見ると、彼が生涯をかけて咲かせたかった『紅い華』の意味がきっと見えてくるのではないでしょうか。
■『ランチユーインザスカイ』(伊藤九/2025年)
遺骨で花火を打ち上げようとする男子高校生たちの、切ない青春物語です。
作者は、現役美大生の伊藤九先生。モーニング月例賞佳作、第85回ちばてつや賞一般部門入選と実績を重ね、本作が初連載作品となります。
友人もできず、変わり映えのしない毎日に、どこか息苦しさを抱えていた男子高校生の南圭介。
夜に花火大会を控えたある日。南は靴箱に入っていた「花火大会いっしょに行こう。話したいことがある」という手紙を見て、浮かれてしまいます。
青春を期待して会場に赴いた南でしたが、実際に待ち合わせ場所に来たのは、学校にほとんど来ない謎めいたクラスメート・喜多誉。なぜか男2人で花火を眺める羽目になりました。
喜多が南を呼び出した理由。それは、自分はもうすぐ死んでしまうこと。死んだら花火になりたいこと。死んだら遺骨を火薬に混ぜて、空に打ち上げてほしいこと。
南は戸惑いながらも、その無茶苦茶な願いに付き合うことに。どうやったら自分たちだけで花火を作って、喜多の遺骨を打ち上げられるのかを試行錯誤していきます。
突飛な提案から始まった2人の関係でしたが、花火作りに向き合ううちに友情が育まれていきます。その日々は、どこか閉塞感のあった南の毎日を確かに変えていきました。
巨匠・松本大洋氏に影響を受けたと公言する伊藤九先生。荒削りな箇所こそあれど、たった1人の友人の願いのために奮闘する南の姿を、瑞々しいタッチで描き切っています。
自分たちの手で、たった一発の花火を打ち上げる。その願いにたどり着いた先は、ぜひ本編で見届けてください。花火を見る側でもあり、そして作る側からも描いた、切なくも一風変わった青春がここにあります。
3つの漫画の共通点
『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』では、一緒にいたいと願った2人の想い。
『玉屋一代 花火心中』では、生涯を懸けて追い求めた美。
『ランチユーインザスカイ』では、たった一人の友人がなりたいと願った姿。
描き方はそれぞれ違いますが、今回紹介した3つの作品には花火に人の想いが宿るという共通点があります。
夜空に咲く、一瞬で消えてしまう花火。その儚さがあるからこそ、託された想いがいっそう輝いて見えるのかもしれませんね。
まとめ – 花火の季節、漫画を片手に
今回は、花火を見る側と作る側、それぞれの想いを重ねた花火が描かれた作品を紹介しました。
儚くも美しい花火は、これまでいくつもの物語を生みだしてきました。
そんな花火の季節が、いよいよやってきます。
花火職人は、一発の打ち上げ花火を作り上げるまでに1か月以上もの時間を費やすといいます。
けれど、実際に夜空で輝くのはほんの一瞬。
だからこそ、その一瞬に込められた想いが見る人の心に深く残るのでしょう。
今回紹介した作品を読めば、花火を見上げる夜がもっと特別なものになるかもしれません。
(執筆:森野沙織)
