雨の雰囲気がたまらない 梅雨時に読みたい漫画3選

雨音に似合う珠玉の物語
雨の日は、どこか特別な時間が流れる気がしませんか?
外に出るのは億劫ですが、心地よい雨音に耳を澄ましながらゆったりと過ごせるのも、雨の日ならではの楽しみですよね。
漫画の世界において、雨は単なる天気ではありません。時には登場人物たちの出会いを演出し、時には心の揺れを映し出す存在として描かれます。
今回は、そんな雨が印象的に描かれる【雨の雰囲気がたまらない 梅雨時に読みたい漫画】を3作品ご紹介します。
■『恋は雨上がりのように』(眉月じゅん/2014年~2018年)
ケガで夢を見失った女子高生と、さえない中年のファミレス店長との心の交流を描いた年の差ストーリーです。総発行部数は200万部を突破、アニメ化や実写化も果たした人気作品です。
陸上部のエースだった女子高生・橘あきら。彼女は、1年生の時に、右足のアキレス腱の大きなケガで競技を続けることが難しくなってしまいました。部活に通えなくなったあきらは、心を閉ざしてしまいます。
ある雨の日。接骨院の帰りにたまたまファミレスへ寄ったあきらが出会ったのが、ファミレスの店長・近藤正己でした。考え事をしていた彼女の姿を見て、コーヒーをサービスした近藤。あきらはその人柄に惹かれ、ファミレスでアルバイトを始めることに。
あきらは、次第に恋心を募らせていきます。しかし、近藤の方はといえば、感情表現に乏しく寡黙な彼女に嫌われているのではと誤解していました。そこで意を決して、彼女は近藤へ告白します。
17歳の女子高生と45歳でバツイチ子持ちのファミレス店長。28歳という年齢差。最初の告白こそ本気とは取らなかった近藤ですが、ずぶ濡れになりながらの2度目の告白で彼女の本気を感じ取ります。
恋の始まりは雨。2回目の告白の時も雨。本作では、『恋は雨上がりのように』のタイトル通り、雨が象徴的に使われます。それはまるで、あきらの心情とリンクしているかのように。
雨は時に人を立ち止まらせ、時に新しい一歩を後押しする。大人と未成年、踏み越えてはいけない一線を意識しながらも、2人は少しずつ距離を縮めていきます。 雨から始まったあきらの恋の行方、そして近藤の出した答え。甘いだけではない、余韻の残る恋の結末をぜひ本編で確かめてみてください。
■『雨と君と』(二階堂幸/2020年~)
女性小説家と、どう見てもタヌキにしか見えない謎の生き物とのほんわかした日常を描いた作品です。ヤングマガジンでの連載作品ですが、X(旧Twitter)公式アカウントや作者の二階堂先生が投稿した連載の一部カットや1ページ漫画がバズったことでも話題を集めました。
ある雨の日、小説家の「藤(ふじ)」は、謎の生き物「君(きみ)」を拾います。どう見てもタヌキにしか見えないその生き物は、自分を犬と自称。藤も犬と信じて疑いません。
「君」は自前のスケッチブックに文字などを書いて会話できるなど、普通のタヌキではない挙動をみせますが、藤はそれを当たり前のように受け入れています。
家でゆったりと過ごしたり、散歩したり、時には海に行ったり。そんな一人と一匹の、ヘンテコでほんわかした日常が始まったのでした。
本作の雨は、藤と君の関係や心の状態を包む舞台装置として使われています。といっても、感情の爆発や転換点を象徴するような強い雨ではなく、しとしとと静かに降る雨が印象的です。それが静寂感や孤独感の演出に一役買っているのでしょうね。 窓の外の雨音がいつもより愛おしく聞こえるような、そんな一作です。
■『アメとハレの風の旅』(新堂みやび/2016年)
児童書など多くの商業誌でイラストを手がけてきたイラストレーターの新堂みやび先生が描いた、冒険ファンタジーです。柔らかいタッチで表現される壮大な世界観と可愛らしいキャラクターたちの描写が高く評価されています。
雨のやまない町を訪れた少年ハレ。町の中央にそびえ立つ塔には神様がいて、その神様の呪いで雨がやまないのだと町の人は言います。塔の中は空っぽだと聞いたハレでしたが、ふと塔に目を向けると、人がいることに気付きます。
その翌日、雨がやまないはずの町で、雨がやむという異常事態が発生。そして、代わりに強い風が吹きすさんでいたのでした。騒ぎの最中、塔に向かうハレは雨を降らせてしまう力を持つ少女・アメと出会います。そう、彼女こそが雨を降らせる能力を持つ神様の正体でした。
そして、雨をやませた張本人こそハレ。過去には町を干上がらせたほど、太陽の力を強めてしまう能力を持っています。
雨を降らせる特殊能力があることで塔に閉じ込められ、町の人からは恐れられ、忘れ去られていく。そんな辛い現実から救ってくれたのが、ハレでした。
ハレの説得でこれまでの思いを吐露したアメは、彼のように旅に出ることを決意します。そして2年後、再び雨女と晴れ男が出会う。そんなボーイミーツガールの正統派ファンタジーです。
アメは、自分のいる場所に絶え間なく雨を降らせてしまう体質を持ち、精神が不安定になると強い雨が降ります。作中の雨は、そのままアメの心の揺れを表しています。
2人は再会して一緒に旅を続け、各地でさまざまな経験をしていきます。楽しいことだけではなく、雨を降らせる特殊能力を利用しようとする者もいるなど、可愛らしい絵柄に反して決して優しいだけの世界ではありません。
雨と晴れ。対照的な2人だからこそ紡ぐハートフルな物語は、読み終えた後も静かに心に残ります。全2巻と読みやすい作品なので、ぜひ手に取って読んでみてください。
3つの漫画を個性づける「雨」の役割
一般的に、雨はうっとうしい、憂鬱といったネガティブなイメージで語られがちです。しかし、今回紹介した3つの作品は、雨を単なる悪天候としては描いていません。人生のターニングポイントであったり、あるいは日常に寄り添う優しい存在であったりなど、物語の大切な場面を彩るように降っています。
『恋は雨上がりのように』では、あきらの恋心や揺れ動く感情が、雨とリンクして描かれています。
『雨と君と』では、しとしとと静かな雨が、日常の静寂感や藤の孤独感を表しています。
『アメとハレの風の旅』では、アメの能力として描写されており、精神状態がそのまま雨の強さに現れます。 雨という同じモチーフでも、作家によってそれぞれ異なる物語が描かれているのは、実に興味深いですね。
まとめ – 梅雨のおうち時間は雨をテーマにした漫画を片手に読書しよう
現実ではうっとうしい雨ですが、漫画の中では物語を動かしていく存在です。
日本語は、雨を表す言葉が非常に豊かな言語だといわれています。例えば、本記事のテーマである「梅雨」、そして春の「菜種梅雨」、初夏の「五月雨」、秋の「時雨」など……。
これほど雨を呼び分ける文化は、世界的にも珍しいようです。私たち日本人が、いかに雨と共に暮らしてきたかがわかりますよね。
今回ご紹介した3作品に共通する「雨」も、それぞれに違った表情を持っています。作品ごとの「雨」の違いを意識して読んでみるのも、また楽しいと思います。
梅雨のおうち時間に、雨が織りなす物語をぜひ味わってみてください。
(執筆:森野沙織)
