チンギス・カンの声は現役力士!『天幕のジャードゥーガル』で話題の“本物キャスティング”、アニメには他にどんな事例がある?

2026年7月4日、TVアニメ『天幕のジャードゥーガル』の放送が始まりました。原作はトマトスープ先生が秋田書店のWebコミックサイト「Souffle」で連載中の歴史マンガで、「このマンガがすごい!2023」オンナ編で1位に輝いた話題作。アニメーション制作は『ダンダダン』のサイエンスSARU、総監督は『けいおん!』『リズと青い鳥』の山田尚子監督という布陣です。

放送直後からXで大きな話題を呼んだのが、モンゴル兵たちが話す「本物のモンゴル語」でした。しかも、チンギス・カンの声を演じているのは、モンゴル出身の現役力士・玉鷲関。「その手があったか」という驚きの声とともに、このキャスティングの妙を考察する投稿が週末のタイムラインを駆け巡りました。

実はアニメの世界には、本職の声優ではない「その道の本物」に声を託してきた系譜があります。今回は力士声優誕生のニュースを入口に、競技かるたの読手から本物のモルモットまで、アニメ界の「本物キャスティング」事例を集めてみました。

目次

チンギス・カン役に現役関取。なぜ力士だったのか

まずはニュースのおさらいです。2026年6月12日、『天幕のジャードゥーガル』製作委員会は、片男波部屋所属のモンゴル出身力士、玉鷲関と玉正鳳関の出演を発表しました。玉鷲関が演じるのはチンギス・カン、玉正鳳関は屈強なモンゴル兵士役で、2人とも声優初挑戦です。

物語の主人公は、13世紀のイランに生まれた本好きの少女ファーティマ。モンゴル帝国の侵攻で故郷を奪われ、草原の帝国の中で「知」を武器に生き抜いていきます。アニメ版では、侵攻してくるモンゴル軍の会話をモンゴル語のまま描く演出が採られていて、主人公が感じたであろう「聞き取れない言葉への恐怖」を視聴者も追体験する仕掛けになっています。

この演出を成立させたのが力士のキャスティングでした。Xでは「モンゴル語ネイティブで、日本語も堪能で、声も良いプロフェッショナルがそろっている業界は相撲界だった」という趣旨の考察が広く拡散しています。確かに、モンゴル出身力士は日本在住で連絡が取りやすく、日本語での演技指導も通じ、母国では誰もが知る名士でもあります。アフレコという未知の仕事を任せる相手として、これ以上ない人選だったわけです。

収録を終えた玉鷲関は「最初は難しかったですが、だんだん慣れてきて、最後まで良かったと思います」と振り返り、アニメ好きを公言する玉正鳳関は「いつかこういう挑戦をしてみたいと思っていた。すごく楽しかったし、本当に良い経験になりました」とコメントしています。相撲ファンにとってもアニメファンにとっても、幸せな出会いになりました。

アニメ界「本物キャスティング」の系譜

「その道の本物に声を任せる」という発想は、今回が初めてではありません。ジャンルも時代もさまざまですが、振り返ってみると名事例がいくつも見つかります。

『ちはやふる』の読みは監修者本人(2011年〜)

競技かるたを描いた『ちはやふる』(末次由紀/講談社)のアニメで、試合の空気を決定づけるのが百人一首の「読み」です。この読み、かるた監修を務めた木本景子さんが自ら作中の専任読手・牧野美登里役を演じています。競技かるたの読みを知り尽くした監修者本人の声は、大会さながらの緊張感を画面にもたらしました。関連書籍『ちはやふるかるた 入門編』の読み上げCDに専任読手の芹野恵子さんが起用されるなど、作品全体が「読みの本物」に徹底してこだわっています。

『シンカリオン』の車掌は中川家(2018年)

新幹線が変形するロボットアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』には、お笑いコンビの中川家が声優出演しています。鉄道好き芸人として知られ、車掌ものまねを十八番とする礼二さんの起用は、公式発表の時点から「これ以上の適任はいない」と話題になりました。芸能人のアニメ出演自体は珍しくありませんが、「車掌の芸を極めた人に車掌を任せる」という点で、本物起用のお手本のような事例です。

『キャロル&チューズデイ』の歌声は英語ネイティブシンガー(2019年)

火星を舞台に2人の少女ミュージシャンを描いた『キャロル&チューズデイ』(渡辺信一郎総監督)では、主人公2人の歌唱パートを、全世界オーディションで選ばれた英語ネイティブのシンガー、Nai Br.XXさんとCeleina Annさんが担当しました。セリフは声優、歌は本物のシンガーという分業によって、劇中歌がそのまま海外のリスナーにも届くクオリティを実現しています。

『ONE PIECE FILM RED』のウタはAdo(2022年)

「歌声のWキャスト」を国民的規模で知らしめたのが『ONE PIECE FILM RED』です。世界の歌姫・ウタの声は声優の名塚佳織さん、歌唱パートは歌い手のAdoさんが担当しました。「新時代」をはじめとするウタの楽曲は音楽チャートを席巻し、「歌姫の役には本物の歌姫を」というキャスティングが映画の社会現象化を後押ししました。

『犬王』は歌って踊る本物のW主演(2022年)

室町時代の能楽師を描いたミュージカルアニメ映画『犬王』(湯浅政明監督)では、主演の犬王をロックバンド・女王蜂のアヴちゃん、相棒の友魚をダンサーとしても活躍する森山未來さんが演じました。歌唱シーンが物語の核になる作品だけに、「歌の本物」を主演に据えた効果は絶大でした。制作はサイエンスSARU。つまり『天幕のジャードゥーガル』と同じスタジオで、「本物を連れてくる」文化の先輩格にあたります。

『PUI PUI モルカー』の声は本物のモルモット(2021年)

最後は変化球です。モルモットが車になった世界を描くパペットアニメ『PUI PUI モルカー』の鳴き声は、声優の演技ではなく、本物のモルモットの声を収録したものです。あの「プイプイ」という愛らしい声は人間には再現できない質感で、モルモットの飼い主からは「うちの子が画面に反応する」という報告が相次ぎました。

なお、声そのものではありませんが、『ゴールデンカムイ』(野田サトル/集英社)でアイヌ語やアイヌ文化の監修を言語学者が務めたように、専門家が「言葉のリアリティ」を裏から支える例も近年のアニメでは当たり前になりつつあります。本物への信頼が、作品の説得力を底上げしているのです。

一覧で見る「本物キャスティング」事例

ここまで紹介した事例を、一覧に整理してみましょう。

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No.作品名放送・公開年起用された「本物」担当したパート
1ちはやふる2011年〜かるた監修・木本景子専任読手役の「読み」
2新幹線変形ロボ シンカリオン2018年鉄道好き芸人・中川家車掌役
3キャロル&チューズデイ2019年英語ネイティブシンガー2名主人公2人の歌唱
4PUI PUI モルカー2021年本物のモルモットモルカーの鳴き声
5ONE PIECE FILM RED2022年歌い手・Adoウタの歌唱パート
6犬王2022年女王蜂アヴちゃん、森山未來主演2人の声と歌
7天幕のジャードゥーガル2026年モンゴル出身力士・玉鷲、玉正鳳チンギス・カン、モンゴル兵士

こうして並べてみると、本物が起用されるのは「読み」「歌」「言語」「鳴き声」といった、演技力だけでは代替しきれない領域だと分かります。今回の力士声優は、この系譜に「ネイティブ言語」という新しい1ページを加えた出来事と言えそうです。

「歴史に目覚めた」視聴者たちの次の一冊

もうひとつ、放送後のXで起きている現象が「歴史マンガの推薦合戦」です。『天幕のジャードゥーガル』で13世紀の西アジアや遊牧民の文化に興味を持った視聴者に向けて、関連作品を薦める投稿が盛り上がっています。

名前がよく挙がるのは、オスマン帝国の後宮を舞台にした『夢の雫、黄金の鳥籠』(篠原千絵/小学館)、19世紀中央アジアの暮らしと婚姻文化を緻密に描く『乙嫁語り』(森薫/KADOKAWA)、「世界最初の女性歴史家」となる東ローマ帝国の皇女を描く『アンナ・コムネナ』(佐藤二葉/星海社)といった作品です。いずれも文化考証に定評があり、アニメをきっかけに歴史マンガの世界へ入っていく読者の受け皿になっています。

個人の皆様へ。アニメから原作へ、この夏の楽しみ方

『天幕のジャードゥーガル』はテレビ朝日系の土曜アニメ枠「IMAnimation」ほかで放送中です。まずはアニメでモンゴル語の響きと映像美を体験して、続きが気になったら原作へ。単行本は刊行中なので、放送に先行して物語を追えます。

そのうえで『乙嫁語り』や『夢の雫、黄金の鳥籠』へと読書の幅を広げていけば、この夏は歴史マンガ三昧の休日になるはずです。

施設運営者の皆様へ。話題のアニメ原作は、集客の即戦力

アニメが話題になった瞬間、原作マンガの需要は一気に立ち上がります。今回のように文化的な話題性を伴う作品なら、なおさらです。温浴施設やホテル、カフェのマンガコーナーに「放送中アニメの原作」と「そこから広がる歴史マンガ」をセットで並べておけば、SNSの話題がそのまま施設の滞在時間に変わります。

弊社では、時期や話題に合わせた選書のご相談も承っています。「話題のアニメ原作を置きたい」「歴史マンガでまとまった棚を作りたい」といったご要望も、お気軽にお寄せください。

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