ホテルの客単価を上げる7つのアプローチ——値上げせずに客室売上を改善する方法

ホテルの客単価・客室単価アップのポイント

「稼働率は悪くないのに、利益が残らない」——この状態のホテルに最も効くのが、客単価の改善です。

ホテルは固定費型ビジネスであるため、客室単価(ADR)が上がった分は変動費(清掃費・アメニティ費等)がほぼ増えず、ほぼそのまま利益に直結します。ADRが1,000円上がるだけで、30室のホテルが稼働率80%なら月間72万円、年間864万円の利益増です。

しかし「値上げ」は口コミ評価の低下やOTAでの価格競争力の低下につながるリスクがあります。本記事では、表面的な値上げではなく、「ゲストが納得して払う」形で客単価を上げる7つのアプローチを解説します。

目次

アプローチ① アップセル——予約後に上位客室へ誘導する

チェックイン時や予約確認メールのタイミングで、上位の客室タイプへのアップグレードを提案する手法です。

「+2,000円でデラックスルームにアップグレードできます」「+3,000円で角部屋のビューバスルームに変更可能です」——全員が応じるわけではありませんが、10〜20%の応諾率でも客単価への効果は大きいです。

アップセルが成功しやすい条件は、アップグレード先の客室に空きがある日(埋まっている日は不要)、差額が元の客室単価の20〜30%以内(割高感を感じにくい範囲)、アップグレード先の具体的なメリットが明示されている(広さ、眺望、設備等)ことです。

予約エンジンやPMSにアップセル機能を持つものもあり、予約完了後の自動メールでアップグレードを提案する仕組みを作れば、スタッフの手間をかけずに運用できます。

アプローチ② クロスセル——宿泊以外の収益を積み上げる

客室売上だけでなく、食事・体験・物販など宿泊以外の収益を積み上げることで、ゲスト1人あたりの総消費額(客単価)を高めます。

食事の追加提案として、素泊まりプランのゲストに対するチェックイン時の夕食・朝食の追加案内。館内レストランのメニューを客室に置く(QRコードで予約できると理想的)。

体験・アクティビティの販売として、近隣の観光体験(カヤック、陶芸、農業体験等)の手配を代行し、手数料を得るモデル。自施設で提供できる体験(利き酒会、ヨガ、館内ガイドツアー等)の有料化。

物販として、館内で使用しているアメニティやタオル、地元の食品を販売する。「ここで出会った良いものを持ち帰りたい」というゲスト心理に応えます。

アプローチ③ レイトチェックアウト・アーリーチェックインの有料化

チェックアウト時間の延長(レイトチェックアウト)やチェックイン時間の前倒し(アーリーチェックイン)を有料オプションとして提供します。

ゲストにとっては「もう少しゆっくりしたい」というニーズに応えるサービスであり、施設にとっては追加のコストがほとんどかからない(清掃スケジュールの調整のみ)高利益率のオプションです。

料金設定は、1時間あたり1,000〜2,000円程度、または3時間パックで3,000円程度が一般的です。公式サイト限定の「レイトチェックアウト無料」特典にすれば、直予約促進のインセンティブにもなります。

なお、このオプションが魅力的に機能するには「滞在中にやることがある」状態が前提です。館内にゆっくり過ごせる設備(マンガコーナー、ラウンジ、大浴場等)があれば、「レイトチェックアウトしたくなる理由」を自然に作ることができます。

アプローチ④ 宿泊プランの松竹梅設計

料金プランを1種類だけ提示するのではなく、「松・竹・梅」の3段階で提示すると、多くのゲストは中間の「竹」を選ぶ傾向があります(行動経済学でいう「フレーミング効果」)。

たとえば、素泊まりプラン8,000円、朝食付きプラン10,000円、朝食+レイトチェックアウト付きプラン12,000円。この3つを並べると、「朝食付きが一番お得感がある」と感じて10,000円のプランを選ぶゲストが増えます。

1段階しかないと「高いか安いか」の二択判断になりますが、3段階あると「どれが自分に合うか」の選択判断になり、価格への抵抗感が薄れる効果があります。

アプローチ⑤ 記念日・特別な日のプラン設計

誕生日、結婚記念日、プロポーズ、還暦祝い——こうした「特別な日」の宿泊は、通常よりも高い客単価が見込めます。ゲスト側にも「特別な日だから少し奮発したい」という心理があるためです。

ケーキ・花束・スパークリングワインなどのオプションを事前予約制で用意し、予約時に選択できるようにするだけで、客単価は数千円〜1万円上がることがあります。原価率は高くないため、利益率の改善にも寄与します。

さらに、記念日の情報をCRM(顧客管理)に記録しておけば、翌年に「昨年のご宿泊から1年ですね」というパーソナライズされた案内を送ることができ、リピート促進にもつながります。

客単価アップとリピート回数の掛け算で見る顧客1人の経済価値(LTV)の計算方法は「宿泊客1人の”生涯価値”を計算する」で詳しく解説しています。

アプローチ⑥ 連泊割引の逆転発想——連泊プレミアムプラン

閑散期の集客策として「連泊割引」を提供する施設は多いですが、発想を逆転させ「連泊するからこそ楽しめるプレミアム体験」を付加するアプローチもあります。

1泊目は客室でゆっくり、2泊目は特別ディナー付き、3泊目は周辺の観光ガイド付き——連泊することで体験が深まるプラン設計は、ADRを下げずに連泊を促進でき、トータルの客単価(=1滞在あたりの売上)を大幅に引き上げます。

アプローチ⑦ ダイナミックプライシングの導入

需要が高い日(週末・祝日・繁忙期)は料金を上げ、需要が低い日(平日・閑散期)は料金を下げる、ダイナミックプライシング(変動料金制)は、ADRの年間平均を引き上げる最も直接的な手法です。

航空券やテーマパークでは当たり前に行われている価格設定ですが、宿泊業界ではまだ「固定料金」で運用している施設が少なくありません。

導入の第一歩は、過去の稼働データから「いつ埋まり、いつ空くか」のパターンを把握すること。その上で、需要が高い日は10〜30%の幅で料金を引き上げ、需要が低い日は逆に下げて稼働率を維持する。このバランス調整が、年間を通じたRevPAR(ADR×稼働率)の最大化につながります。

まとめ

客単価の改善は、値上げとは異なります。「ゲストが納得して払う理由」を設計することが本質です。アップセル、クロスセル、レイトチェックアウト、プランの松竹梅設計、記念日プラン、連泊プレミアム、ダイナミックプライシング——7つのアプローチのうち、自施設で明日から着手できるものが必ずあるはずです。

ADRが1,000円上がるだけで、年間の利益は数百万円単位で変わります。まずは「今のADRを1,000円上げるとしたら何ができるか」を考えるところから始めてみてください。

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