フェンタニル依存問題から学ぶ! 薬物依存の現実を描いた漫画3選

日本も他人事ではないフェンタニル問題
人をゾンビにすると言われる麻薬「フェンタニル」。日本でもニュースになっていることもあり、名前は聞いたことがあるという人も多いのではないでしょうか。フェンタニルとは、アメリカを中心に欧米で社会問題化している医療用合成麻薬です。わずかな量で強烈な中毒症状を引き起こし、ゾンビのような状態にしてしまう大変危険な薬物です。
日本では、インターネットを中心に2025年春先頃からフェンタニルの存在が知られ始めていました。そして2025年6月25日、大手新聞社が「中国の麻薬密輸組織が日本に拠点を作り、アメリカに合成麻薬フェンタニルを不正輸出していた疑いが判明した」と報じたことから、一気に知られるようになりました。
知らない間に日本もフェンタニルの輸出拠点になっていた。この事実からもわかるように、決して他人事ではありません。しかし、その危険性の実態は、画面の向こうのニュースだけではなかなか実感しにくいものです。そこで今回は、【薬物依存の現実を描いた漫画】3作品を紹介します。
■『ウルトラヘヴン』(小池 桂一/2001~2009年)
多種多様なドラッグによって、気分を自由にコントロールできる未来。そこでは、酒やタバコと並び、ドラッグが日常の嗜好品となっています。主人公のカブもまた、その世界でドラッグに溺れる若き青年の1人です。ある日、彼は不思議な売人と出会い、未知のドラッグを試します。これまでとは比にならないほど現実よりリアルな悪夢を体験し、その恐怖から逃れるためにさらにドラッグを求め続けていきます。
この作品は、薬物依存者が見ている精神世界が圧倒的な画力で描写されます。どこからが現実で、どこからが夢なのかもわからない。多幸感だけでなく、不安や絶望に満ちた悪夢まで。これは、フェンタニルの効果にも通じるものがあります。麻薬の危険性を依存者目線から追体験できる作品です。
■『リバーズ・エッジ』(岡崎京子/1993~1994年)
舞台は90年代のとある街。淀んだ河、均一な外観の団地群。その河原にはセイタカアワダチソウが生い茂り、よくネコの死骸が転がっている。どこにでもありそうな景色の街で、主人公のハルナは生まれ育ってきました。ある日、高校で元カレの観音崎らにいじめられている山田を助けたことをきっかけに、彼から「秘密の宝物」の存在を打ち明けられ、物語が大きく動き出します。
90年代といえば、若者の間でシンナーをはじめとした薬物乱用が社会問題化していた時代。作中でも、観音崎は高校生にしてドラッグの売人として小遣いを稼いでいます。ハルナの友人であるルミと性的関係を持つ際にも、ドラッグを当たり前のように使います。もちろん当時と今では状況が違いますが、ドラッグは決して遠い存在ではない。そんな現実を突きつけられる作品です。
■『夜回り先生』(原作:水谷修、漫画:土田世紀/2004年~2012年)
日々の食べ物にも困る生活を送っていた少年マサシ。病気の母親を支えるため、コンビニ弁当や給食の余りをもらいながら健気に暮らしていました。学校ではいじめを受けていましたが、助けてくれた暴走族の兄貴分とつるむようになり、不良の道へ。いつの間にかドラッグにも手を出し壊れていったマサシの前に現れたのが、後に「夜回り先生」と呼ばれる水谷修でした。
本作は、夜の繁華街をさまよう子供たちと向き合い続けてきた水谷修氏の同名著書を漫画化したものです。冒頭で描かれるマサシの物語はその前日譚にあたり、非常に重く悲しい結末を迎えます。母親想いの優しい少年を、ドラッグはあっけなく壊してしまったのです。何が子供たちをドラッグ依存へと追い込むのか。考えさせられる作品となっています。
3つの漫画で学べるポイント
今回紹介した3作品は、薬物依存の現実を異なる視点で描写しています。
『ウルトラヘヴン』は、薬物依存者の視点を徹底的に描いた作品です。一度味わった快楽や幻覚が忘れられず、さらに強い刺激を求め続けてしまうループは破滅を予感させます。特に精神世界の描写は圧倒的で、読んでいるだけで薬物を摂取している錯覚に陥るほど。多幸感を引き出すと同時に、強烈な副作用が潜んでいる点はフェンタニルと重なります。
『リバーズ・エッジ』は、薬物依存を主題にした作品ではありません。主人公のハルナは最後まで、元カレがドラッグの売人であること、友人との性交で普通に使っていた事実を知ることはありませんでした。しかし、特別な環境ではなくとも身近な場所に薬物が存在する描写が自然に描かれており、リアリティがあります。舞台は90年代と結構昔ですが、薬物はいつの時代でも身近にあるという普遍的な警告になっている点は興味深いです。
『夜回り先生』は、家庭環境や貧困、いじめなど、社会的に弱い立場にある子どもが薬物依存に巻き込まれてしまう現実が描かれています。一度依存すると心身共に壊れてしまう描写は、非常に生々しいです。薬物依存は個人の問題ではなく、家庭・学校・社会の構造とも深く結びついていることを改めて考えさせられた作品です。
まとめ – 薬物依存の怖さを知ることが最大の予防策
フェンタニルは、元々は医療用の鎮痛剤として誕生した薬剤です。痛みが消え多幸感を生み出す反面、強い吐き気や嘔吐などの副作用があります。しかし、一番怖いのは依存性です。過剰摂取すると次第に無気力になり、筋肉が弛緩して前かがみになり、それがまるでゾンビのようだと表現されます。
私たちがフェンタニルのような薬物依存に巻き込まれないためには、あらかじめその危険性を知っておくことが大切です。ニュースだけでは実感しにくい部分も、漫画を通じてなら理解しやすくなるでしょう。今回紹介した漫画作品は、それぞれ異なる視点から薬物依存の現実を描いていました。フィクションとはいえ、そこに映し出された描写は現実と地続きになっている部分も多いです。
薬物は、一度手を出してしまえば自分の意思で抜け出すのは困難です。だからこそ、近づかないこと、関わらないことが最大の予防策となります。今回取り上げた作品で薬物依存の怖さを知っておけば、自分の身を守る第一歩になるかもしれません。
(執筆:森野沙織)