長距離種目・マラソンの代表は駅伝から育成される! 駅伝・マラソンを描いた漫画3選

長距離種目・マラソンの代表は駅伝から育成される! 駅伝・マラソンを描いた漫画3選のサムネ
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東京2025世界陸上の盛り上がり

2025年9月13日~21日までの9日間、日本では2007年の大阪以来18年ぶり、東京では34年ぶりの開催となった世界陸上。世界レベルの走り、跳躍、投擲に現地で興奮しながら観戦した人もいれば、テレビに釘づけになった人も多いのではないでしょうか。

日本人が世界で勝つとなると容易なことではないものの、競歩で2つの銅メダルと短距離・跳躍種目での入賞者、予選通過者が出るなど地元開催の中で奮闘する姿が見られました。

さて、日本発祥で長く親しまれている陸上競技の種目といえば駅伝。毎年お正月の1月2~3日に行われる箱根駅伝(東京箱根間往復大学駅伝競走)は、100年以上続く駅伝大会で、沿道に多くの観客が声援を送る光景を見たことのある方も多いでしょう。この箱根駅伝に憧れて、日本全国から多くの高校生が関東の大学に進学。出場を目指して4年間しのぎを削ります。

ほかにも、日本各地で「全国高校駅伝」「クイーンズ駅伝」「ニューイヤー駅伝」など有名な大会が行われており、日本の長距離界は、駅伝に支えられているといっても過言ではありません。

実際に今回の世界陸上では、男子3000メートル障害で8位入賞した三浦龍司選手や女子10000メートルで6位入賞を果たした廣中璃梨佳選手、女子マラソンで7位入賞した小林香菜選手など、長距離種目で代表に選ばれた選手は駅伝に出場経験がある選手ばかりでした。

また、北京オリンピック以降の男子マラソン代表が箱根駅伝の出場経験者で占められていることから考えると、駅伝を通して長距離選手を育成する文化は、日本独自のものといえるでしょう。 そこで、今回は【駅伝・マラソンを描いた漫画】をテーマに、3つの作品を紹介します。

駅伝・マラソンを描いた漫画3選

■『奈緒子』『奈緒子 新たなる疾風』(原作:坂田信弘、作画:中原裕/1994~2003年)

主人公は、日本海の疾風(かぜ)と呼ばれる天才ランナーの壱岐 雄介。漁師をしている父親の健介も、かつて日本海の疾風と呼ばれたランナーでした。しかし、ヒロインで当時小学4年生の篠宮 奈緒子が船上で足を滑らせて海に落ちた際、彼女を助けて父が亡くなってしまいます。父親の走る才能を受け継いだ雄介は、小学生時代は短距離と走り幅跳びで優勝。中学からは1500m、高校からは駅伝の10km区間やマラソンを走るようになり、走るたびに数々の伝説を残していきます。その活躍を、奈緒子の回想を織り交ぜながら描いた物語です。

さまざまな事情から、一度は走ることをやめた雄介。しかし、その才能を周囲がほうっておくはずもなく、中学・高校時代の先輩、小学生時代から親しい友人、同級生らに支えられ、さらにマラソンでライバルとなる本田との切磋琢磨の中で、自身の能力を伸ばすとともに「日本一のマラソン選手になってほしい」という父の願いを叶えるべく成長していく過程が描かれています。1994年と古い作品ながら、過酷なトレーニング風景や躍動感ある走り、駆け引きの心理が盛り込まれており、連載終了から20年以上たった今も色褪せない作品です。

■『風が強く吹いている』(原作:三浦しをん、作画:海野そら太/2007~2009年)

主人公は、天才ランナーと呼ばれた蔵原 走。しかし高校時代に自らが引き起こした暴力事件によって退部して、走ること自体もやめていました。寛政大学に入学前のある夜、走が万引きをしてしまい逃走していたところ、とある人物が自転車で追いかけてきて「走るのは好きか?」と問いを投げかけます。その男の名前は、清瀬 灰二。怪我で満足に走れない彼は、偶然にも寛政大学で学生寮(竹青寮)の管理人をしていました。走が入寮して10人になったとき、灰二は「ここにいる10人で箱根駅伝を目指す!」と宣言。ここから、箱根駅伝初出場、シード権を目指した戦いがスタートします。

オンボロの竹青寮に住む学生は、運動が苦手な外国人留学生、やたらと知識のあるクイズ王、司法試験に合格している秀才など、およそ走ることとは無縁そうな面々。そんな彼らが箱根駅伝を目指すストーリーが本作の見どころです。当初なし崩しに付き合っていた走は、どうしても本気になれず、住人との温度差がありました。そんな彼が学生トップランナーと記録会で競ったことで本気になり、お互いに絆を含めて成長していきます。メンバーのさまざまな葛藤や考えを受け取れるとともに、箱根駅伝の面白さを存分に味わえる作品といえるでしょう。

■『マラソンマン』(井上正治/1993~1997年)

主人公は、高木 一馬と高木 勝馬の親子。小学校3年生の一馬は、酒におぼれて授業参観をすっぽかすほどの呑んだくれだった父・勝馬を軽蔑していました。そんな父は、かつては将来を嘱望されたマラソンランナーでした。あるとき、勝馬は自分が活躍していた頃のスクラップブックを見ながら泣き濡れていた息子の姿を目撃し、福岡国際マラソンでカムバックを決意。すでに終わったと思われたマラソン選手だった勝馬と、その息子・一馬による、親子二人三脚の世界への挑戦を描いています。

カムバック後の勝馬が大きな不運に見舞われ、母に引き取られたことによる環境の変化で、マラソンへの希望と情熱を失いかける一馬。彼は小学生時代に父のトレーナーとして、大学以降は自らがランナーとして駅伝・マラソンに携わってきました。しかし一馬のゆく道は決して平坦ではなく、襲いかかる試練も親友の死や陸上界の利権、欲にまみれた無敵のランナーとの戦いなど重たいものばかりです。その中で、信念を貫いて走り抜く勝馬・一馬親子の姿勢は、思わず2人を心から応援したくなります。

学べるポイント

今回紹介した漫画のうち『奈緒子』では、人間の心理が巧みに描かれています。主人公の壱岐 雄介は時にさまざまなものを我慢して生きているように見え、天才であるがゆえにあえて目立とうとしない。あえて孤独な状況を作り出しているようにさえ見えてくる人物です。

しかし、その才能と人間的な魅力が周囲の人間を惹きつけます。時にはプロの世界で頂点を目指せそうな選手が彼の下を訪れ、ともに切磋琢磨していき、人間的に成長していく。その大切さが描かれています。

2作目の『風が強く吹いている』は、駅伝チーム結成から箱根駅伝初出場をかけた予選会、本戦での戦いがテーマです。その中で学べるポイントは、怪我で満足に走れなくなっていたもう一人の中心人物・清瀬灰二の箱根駅伝にかける執念です。

そもそも箱根駅伝に出場するには、予選会で上位10校に入らなければなりません。その予選会に出場するためには、期限内に標準記録を突破した選手を最低10人揃える必要があります。実際、灰二は学生寮の管理人をしながら、なんとか10人の選手を集め、時には強引な手段で、時には巧みな話術で彼らの心を掴み、本気で箱根駅伝に挑むチームとマインドを作り上げます。

原作となったのはやや古い小説ですが、そのマネジメント手法は現在でも色褪せることはないでしょう。

『マラソンマン』は、マラソンへの復帰を決めた父を息子が支え、後にその息子自身がランナーとして走る、親子二代の物語です。フルマラソンは、42.195kmを走り抜きます。特に夏に行われる大会は30℃を超える中で行われることも多く、途中で棄権する選手も続出するほど過酷です。

そのため、42.195kmを走り抜くための走力・体力はもちろんのことながら、最後まで走り抜く気持ちも求められる競技といえます。それは、弱い自分に打ち勝つためかもしれませんし、応援してくれる家族のためかもしれません。 時には起き上がれないほどの精神的ダメージを負うこともあるでしょう。そんな中でも、諦めることなく再起することの大切さを教えてくれる作品です。

まとめ – どこで能力が伸びるかは誰にもわからない

描き方は作品ごとに異なります。その中で、共通しているのは「中断・休止した期間があったとしても努力することが大切だ」という強いメッセージ性です。

どの作品の主人公たちも理由は異なるものの、さまざまな理由で挫折して心が折れかける、もしくは自らの意思で競技から離れてしまう描写がなされています。

しかし、家族や友だち、先輩、仲間などの支えを受け、精神的にも肉体的にも強くなって戻ってきます。

今回の世界陸上2025を見てもわかるように、高校・大学時代から各種駅伝で活躍していた選手がいる一方、学生時代はなかなか駅伝に出られなかった選手が、卒業後に伸びて記録を伸ばしていくケース、大学時代は同好会出身、あるいは卒業後に市民ランナーとなった選手が頭角を現すというケースも見られます。

このように、どこで本来持っている能力が開花して伸びていくかというのは、誰にもわかりません。これはスポーツだけでなく仕事にも、また人生そのものにもいえることでしょう。今回紹介した漫画を読んで、能力を伸ばして力強く生きるために必要な心構えを学んでみませんか?

(執筆: なつめれいな)

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