「地方創生2.0」の成功のカギはどこに? 地域の文化と向き合える漫画3選

地方経済の新たな発展を目指す「地方創生2.0」
昨年、前石破内閣は「地方経済の創生」「人や企業の地方分散」などを柱に盛り込んだ「地方創生2.0」の基本構想を示しました。
「地方創生」とは様々な定義が見られますが、総じて地方の特性を活かして持続可能な発展を目指す考え方と言えます。2014年から進められてきたいわゆる「地方創生1.0」が「人口減少をおしとどめる」を目標の1つとしていたのに対し、「地方創生2.0」は「人口減少を受け入れる」を基本姿勢としているのが大きな変化と言えるでしょう。
掲げる施策の面でも「1.0」が移住促進や地方での雇用創出などを柱としていたのに対し、「2.0」は人口減少する中での経済や地域社会の維持を柱に、都市と地方の支え合いや新たな地方経済の構築に取り組む視点を打ち出しています。
地方経済の活性化のために、地域の食や伝統産業などのポテンシャルを活かした高付加価値化を図る、といったことも基本構想に盛り込まれている「地方創生2.0」。つまりは、地域の特性にきちんと価値を見出していくということですが、実は漫画コンテンツの中には特定地域の魅力を引き出す視点で描いた名作がいくつもあります。今回はその中から地域の良さをわかりやすく伝えてくれる3作品をご紹介しましょう。
地域の文化と向き合える漫画3選
■『ゴールデンカムイ』(野田サトル/2014~2022年)
日露戦争の帰還兵である杉元佐一は北海道で砂金採りしているときに奪われたアイヌの埋蔵金の噂を聞きます。そして、この埋蔵金を見つける詳細な手がかりを知ってしまった杉元はヒグマに襲われかけたところを助けてくれたアイヌの少女・アシㇼパと手を組み、埋蔵金を探す冒険と戦いを繰り広げることとなります。
本作の舞台は明治末期の北海道。日本政府が開拓を本格的に始めた時代であり、劇中では杉元とアシㇼパの旅を通して当時の北海道の風土、さらに、この地に昔から暮らしていたアイヌ民族の文化や風習を知ることができます。劇中で描かれるアイヌの言葉や自然に対する考え方、彼らが使う道具などはいずれも非常に興味深いもの。また、アシㇼパが作るアイヌの料理、それも“狩猟メシ”の数々がワイルドながらも美味しそうで、食文化の面でも好奇心を掻き立てる作品となっています。
■『金沢シャッターガール』(桐木憲一/2015~2017年)
主人公は石川県金沢市で生まれ育った女子高生・夏目花菜。高校の写真部に所属する彼女はカメラを片手に金沢周辺のマニアックな場所を撮影する活動をしていました。ある日、花菜はドイツからやってきた写真家の男性・ユーリと出会い、撮影の手伝いをすることに。高校卒業後の進路や写真との向き合い方に悩んでいた花菜でしたが、ユーリと一緒に金沢市内を巡りカメラのシャッターを切りながら、少しずつ自分なりのヒントを見出していきます。
金沢といえば、かつて加賀百万石の城下町として栄えた土地。兼六園や茶屋街など昔ながらの風情が残るスポットがあり豊かな海の幸が味わえるということで、観光旅行先として人気の高い地域です。本作は金沢の名物スポットが多数登場するガイドブック的要素の高い作品でもあり、花菜やユーリの撮影探索を見守りながら金沢を巡っている気分に浸ることができます。
■『だもんで豊橋が好きって言っとるじゃん!』(佐野妙/2018年~)
愛知県豊橋市に引っ越してきた国元ほのか。転入した高校になじめず戸惑っていましたが、校内でゴミを捨てたときに先輩の吉田ちぎりに捨て方を注意されます。実は豊橋市は「ごみゼロ運動」発祥の土地でした。そして、地元愛の強いちぎりに誘われて「ボランティア部」に参加することになったほのかは、先輩たちと行動する中で豊橋市の様々な魅力に触れ、市民としてなじみつつ周りとの交流も深めていくのです。
女子高生たちの日常を通して豊橋市の特徴やあるあるを伝える本作。愛知県というと名古屋のイメージが強いですが、この作品を読むと豊橋も非常に魅力的な場所であることがよくわかります。人気のお菓子「ブラックサンダー」が生まれた土地であること、路面電車が走る街であること、そして、うずらの卵の生産で国内トップを誇ることなど、読めば読むほどに地域の特性と良さが身近に感じられて、一度訪れてみたい!と思わせてくれる作品です。
3つの漫画で学べるポイント
今回紹介した漫画作品から学べるのは、まずなんといっても舞台となっている地域の魅力。それぞれの土地に独自の歴史と発展、文化があるのがよくわかります。なお、どの作品にも特色ある地域グルメが登場しているのを特筆すべき点として挙げておきたいです。
また、3つの作品を読んで気付かされるのが、地域の魅力とは実は非常に奥が深いということ。
なかなか知る機会のない北海道のアイヌ文化を知る扉を開いた『ゴールデンカムイ』。金沢市内の坂道や街中のオブジェ、心霊スポットなど地域の情緒ある風景を描き出している『金沢シャッターガール』。そして、名物や観光スポットだけでなく方言や地域あるあるまでこれでもかといわんばかりに豊橋市のことを語っている『だもんで豊橋が好きって言っとるじゃん!』。地域の良さというのは多様かつ多彩であり、それを伝えるやり方も様々なアプローチがあるということを各作品の切り口の違いが示しているといえます。
まとめ – 地方創生のカギは、地域を知ることにある
地方創生を成功させるカギは何か? 答えは簡単ではありませんが、一つ言えるのは、地域の良さを活かして発展させていくには、まず各地域の特色をきちんと知ることが不可欠だということ。
そして、漫画やアニメがその糸口になることは決して少なくはないはず。人気漫画の舞台になった場所をファンが聖地巡礼するようになり観光振興につながる、といったケースは昔から多数見られ、現在では「コンテンツツーリズム」という概念で広く知られています。今回ご紹介した3冊もしかり。気になった作品があればぜひ手にとって、国内各地域に息づく文化や魅力に触れてみてください。