非行少年たちの問題に迫る社会派マンガ『ケーキの切れない非行少年たち』

少年院に入る少年・少女は年間で約2,000人。家庭裁判所で処理される少年・少女が年間で約55,000人いるので、全体の4%弱が少年院送致になる計算です。そんな彼らの多くは、発達や知能に何らかの問題を持っている可能性が高いことはあまり知られていません。
そうした問題に深く切り込んだ作品として、宮口幸治先生原作、鈴木マサカズ先生作画の『ケーキの切れない非行少年たち』を紹介します。
2020年度新書部門ランキング1位の作品をコミカライズ
『ケーキの切れない非行少年たち』の原作は、2019年7月に出版された同タイトルの新書(新潮新書)です。
発売当初より各界から絶賛の声が寄せられ、2019年度は年間ベストセラーランキングの第3位。その勢いは2020年も衰えず、オリコン、トーハン、日販の年間ベストセラーランキングの新書(ノンフィクション)部門で1位にランクインしました。
本作は、少年院で多くの非行少年たちの自立支援に携わった宮口幸治先生(児童精神科医、立命館大学産業社会学部教授)がコミック用に書き下ろしたものを、『マトリズム』などで知られる鈴木マサカズ先生がコミカライズした作品です。
タイトルの由来は、医療少年院に送致された非行少年たちへ「ケーキ(に見立てた円)を三等分にしてください」という問題を出した際、彼らが三等分できなかったことに対して原作者が衝撃を受けたというエピソードにあります。
本シリーズは、新書とコミックの全3作あります。
【新書】 『ケーキの切れない非行少年たち』 『どうしても頑張れない人たち』
【コミック】 『ケーキの切れない非行少年たち』
コミックスの最新巻(第4巻)が発売された時点で、累計部数120万部を突破(新書・コミックス・電子書籍の合計)。コミックは新潮社のWEBマンガサイト「くらげバンチ」で月1回更新されています。
『ケーキの切れない非行少年たち』をおすすめする2つの理由
1. 少年院のリアルが描かれている
本作は、主にとある少年院で児童精神科医として診療している主人公・六麦克彦の視点で描かれています。
先にも書いたように、新書版の著者である宮口幸治先生自身も児童精神科医です。彼自身が「知的障害がある(ICD-9の分類ではIQ:70未満)」もしくは「境界知能にある(IQ:70~84)」と見られる少年・少女たちと向き合ってきた過程の記録ともいえるでしょう。
その他、少年たちの更生教育を行う法務教官による教育活動も描かれており、日常では知り得ない少年院を知ることのできる作品です。
2. 社会問題に関心を持つきっかけになる
『ケーキの切れない非行少年たち』には、さまざまな境遇の少年・少女が登場します。
・学校の教育現場で「変わった子供」として見られることで、本来必要とされるはずの支援を受けられずに非行に走り、退院しても社会に馴染めずにストレスを溜めてしまう少年。
・少年院送致時に妊娠していて、出産した子供を母親に育ててもらっているが、その母親と面会するとパニックを起こす少女。
彼らの多くには適応障害や発達障害があり、一般的に私たちが抱く犯罪者のイメージとは違ったベクトルで、危害を加えたり非行事実を積み上げたりします。そこへ至るプロセスもさまざま描かれており、読み応えのある作品です。
多くの人に読んでもらいたい社会派マンガ
『ケーキの切れない非行少年たち』というタイトルから、懐疑的に見てしまう人も多いと思います。しかし、実際に読んでみると、非行少年たちの問題を取り扱った真面目な社会派マンガです。
作品全体で「犯罪と知能の問題」をテーマに掲げ、小・中学生のうちに何らかの支援が必要な段階で、受けるべき支援が受けられていない現状を訴えています。
この作品によって、不幸にも非行行為に走ってしまった少年たちが、苦しそうな表情をしていたことに思いを馳せ、ひとりでも多くの人に必要な支援が届くよう願うばかりです。