2025年『今年の漢字』は『熊』だった!!『米』に振り回された年。農業に親しめる漫画3選をご紹介

「米」に振り回された2025年
公益財団法人「日本漢字能力検定協会」が主催する「今年の漢字」。1995年に始まったイベントで、年末における風物詩のひとつとなった感があります。2025年を漢字一文字で表すとすれば、皆さんは何になるでしょう。この12月12日に発表された今年の漢字は「熊」でした。皆さんの考えと一致しましたか。
確かに2025年の世相を表す漢字一文字として納得できるものがあります。ただし私が2025年を振り返った時に思い浮かぶ漢字は「米」です。スーパーなどにおける米不足が始まったのは昨夏でしたが、失言による農林水産大臣の交代や備蓄米の放出などもあって、さらに騒動が長引きましたから。また「トランプ関税」と呼ばれるアメリカ(米国)の突発的な関税強化もありましたね。
以前は5キロ2,000円くらいで買えた米も、今では4,000円を超えるのが当り前となっています。そのうえ味に定評のあるブランド米となれば5,000円超えの品も店頭に並んでいます。小売価格がそんなに上がっているのなら農家が儲かっているかと言えば、そうは問屋が卸さない様子。少なからぬ中間業者――それこそ問屋――が間に入ることで、消費者が支払ったお金はストレートに生産者まで届かないようです。
さて、漫画の中には、職業や仕事をテーマとして描かれた作品が数多くあります。その業種で働いている人しか知らない出来事や、実際に取り組んでいる人だからこそ分かる感覚を、読み手を興味深く楽しませるように描いています。もちろん、そうした漫画の中には農業をいろんな切り口で描いた作品も存在します。そこで今回は、【農業】に親しめる漫画を3つ紹介します。
農業に親しめる漫画3選
■『豊作でござる!メジロ殿』(シナリオ:原恵一郎、作画:ちさかあや/2019~2022年)
時は江戸時代の末ごろ。郡奉行を勤める目白逸之輔(めじろ いつのすけ)は、職務以上に農業への興味が強い侍で、様々な農書に埋もれたり、各地の農村をめぐり現況を把握したりする毎日を送っていました。どこの農村も何がしかの問題を抱えており、逸之輔は頭と足を使って、それらの問題に真正面から取り組んでいきます。自らも農書の編纂を進めている逸之輔ですが、その完成はいつになるのか?
舞台が江戸時代なだけあって、近代化された農業とはいろんな点で別物ではあります。ただ、それだけに逸之輔や農民らの地道な苦労が、これでもかと続く様子が描かれています。時代劇などに出てくる奉行や代官と言えば悪者ばかりですけれども、逸之輔のように農民によりそって働いた武士も多くいたはず。逸之輔の農書が完成しても、深遠な農業の追求には終わりがありません。逸之輔が農業の未来を見る目がまぶしいです。
■『十勝ひとりぼっち農園』(横山裕二/2018年~)
お世話になった漫画家の先輩らを、自作の野菜を使ったカレーでおもてなしする。編集長のそんな無茶ぶりで始まった企画を、エッセイ漫画の形で発表している本作。それまでほとんど農業に縁のなかった作者が一から農業に取り組む様子が描かれています。農地を借りるところから始め、ようやく収穫できた野菜で作ったカレー。先輩漫画家らを招待して御馳走するものの、食べた人達の評価は……?
「なにも北海道でなくても」とは思いますが、農業といえば「北の大地」のイメージは強いのでしょう。北海道に居を移すところから始まる連載は、作者の等身大な面白さがあります。幾多の苦労を重ねて野菜を収穫できているものの、カレー作りの分量を間違えたり仕込みを失敗したりして、先輩漫画家を満足させるには至っていません。直近の連載では新たに蕎麦作りを始めましたが、そこでも失敗して漫画界の大御所・あだち充先生をガッカリさせています。もっとも名誉挽回すると、連載が終了してしまうかもしれませんが。
■『異世界のんびり農家』(原作:内藤騎之介、作画:剣康之、キャラクター原案:やすも/2017年~)
ブラック企業で体を壊すほど働いたあげくに、若くして命を落とした街尾火楽(まちお ひらく)は、神様のはからいによって健康な体で異世界に転移することができました。農業をやりながら心静かに暮らしたいとする望みにより、火楽には神様から万能農具が与えられます。それを使って死の森と呼ばれる森林を切り開いて農業に精を出していく火楽。インフェルノウルフやデーモンスパイダー、吸血鬼や天使などの仲間が増える中で、火楽達が開拓した村も次第に大きくなっていく物語です。
様々な道具に変化する万能農具に加えて、動物や虫まで協力する農業はまさに無敵。しかし神様を味方につけていれば、そんなものだろうなと思わせられます。果物を収穫して作ったお酒を飲んだり、米を収穫して作ったおにぎりを味わったりするシーンなども、かなりお手軽に表現されています。ただし、それゆえに農業の楽しみの一端を見事に表現しているのは間違いありません。こんな豊かな来世が過ごせるなら、ブラック企業で使い潰されるのも悪くないかと思ってしまいそうですが、さすがにそれは嫌か。
3つの漫画で学べるポイント
まず『十勝ひとりぼっち農園』は作者の体験記なだけあって、農業の苦労や楽しさが一番身近に感じられる作品です。作中では、どちらかと言えば失敗や勘違いなどが多めに描かれているのですが、この辺りは漫画のネタとして面白い部分をピックアップしたいという事情なのかと思います。そうでなければ、先輩漫画家らを招いてたくさんの野菜を御馳走なんてできないですしね。
農業に限った話ではありませんが、先人の苦労や知恵が積み重なって存在するのが現代です。『豊作でござる!メジロ殿』は江戸時代末の農民が重ねた苦労をできるだけ詳細に描いている点が見ものです。もっとも、飢饉や一揆が少なからずあった江戸時代。当時の農民の苦労は、今の私達が想像している以上のものであろうことは忘れないでいたいです。
最後に『異世界のんびり農家』は、特に農業における収穫の楽しさやうれしさにスポットを当てた作品と考えてください。実際の農業はもとより、小規模な家庭菜園であっても、それなりに苦労や失敗をするのが当り前。本作のように、とても“のんびり”とはできないのですけれども、これも漫画なりの読者をひきつける表現のひとつに違いありません。
まとめ – 農業は国を支える柱のひとつ
冒頭で取り上げた令和の米騒動。高くなった小売値とともに仕入れ値もいくらか上がったようで、とあるニュースで「ひと息つける」と喜んでいた農家さんの言葉が印象に残っています。
「苦労のわりに儲からない」と言われることもある農業ですが、国を支える根幹のひとつであるのは事実。つらさや楽しさ、やりがいなど農業のいろんな側面に親しむためにも、「農業」をテーマに描いた漫画を読んでみませんか。
(執筆: 県田勢)
