凡人が周囲の人を救う物語『路傍のフジイ~偉大なる凡人からの便り~』

「普段は目立たない人が、実はすごい人だった」というのはよくある話。職場では空気みたいな存在である一方、プライベートではかっこいい生き方をしている人は、私たちにとって理想的なあり方です。
しかしながら現実世界には、職場・プライベートを問わずマウントを取りたがる人、承認欲求を満たしたがる人が多くいます。そんな中にいて、疲れてしまい燃え尽き症候群の一歩手前という人も多いのではないでしょうか。
そんな人に贈りたい作品が、鍋倉夫先生の『路傍のフジイ~偉大なる凡人からの便り~』です。
本作は、マンガ大賞2025で第2位に入賞。電子書籍も含めた累計発行部数は、第4巻発売時で80万部を突破しています。
「普段は目立たないのになぜか気になる」不思議な存在感を持つ人の物語
本作の主人公は、会社員のフジイ。40歳過ぎで非正規社員、独身の男性です。
会社内では誰かに話しかけられれば一言二言は話すものの、自分から話しかけることはありません。
真面目な性格な一方、どこかズレているために他人の仕事を押し付けられ、飲み会に誘われないなど、空気みたいな存在として扱われている上、周囲から舐められがち。多くの人が「ああはなりたくない」と思っています。
しかし、ふとした瞬間になぜか見てしまうことに気づき……。
本作は、一見すると地味で目立たないように見えるフジイさんと触れ合うことで、周囲にいる人がその人柄に惹き込まれていき、関わった人が気づかないうちに救われていくさまを描いた物語です。
今こそ『路傍のフジイ~偉大なる凡人からの便り~』を読んでもらいたい2つの理由
- どこまでも自分軸で生きているフジイさんに共感する
物語は、周囲の人間がフジイさんを観察するような感じで展開していきます。
ただ、当の主人公は何の面白みもないように見えるのか、部署内で飲み会などのイベントがあっても仲間はずれにされてしまう始末。
40歳過ぎて非正規雇用で独身なこともあるのでしょう。部署の人たちも、どこか馬鹿にするような雰囲気さえあります。
しかし、彼は誰に何を言われようと自然体。
顔色を変えずに、このように言い切るのです。
友達はいますよ。
その時々で同じ何かを共有して、
それきり連絡先も知らず、二度と会わない人もいますけど、
今でも友達だと思ってます。(第1巻 第5話より)
そんな他人軸や他者の感情を気にしないフジイさんの生き方に、読者からは共感の声が集まっています。
- 「沈黙」が相手の心にある奥底の感情を引き出す
どの相手に関しても、相手に何かを聞かれない限りフジイの方から何かを話し出すことはありません。
そういう点では、会話の中にある沈黙さえも楽しむタイプといえますし、周囲の人たちが耐えきれずに勝手に話しはじめる感じともいえるでしょう。
同僚の矢部と営業先に出向いて、時間が押したことでお昼を食べそこね、矢部はフジイを連れて行きつけのお店に立ち寄ります。
しかし、矢部が仲間と一緒に楽しんでいる一方で、フジイは先に帰ってしまい……。
先に帰ろうとするフジイを追いかけ、矢部が「もう少し笑顔を見せたらみんなと打ち解けられるのに」と言うのに対して、表情を変えることなく「無理してまで人に好かれようとは思いません」と言い切ります。
上記エピソードに限らず、沈黙の間さえも楽しむフジイのマイペースさがさらなる興味を呼ぶのです。
自身の人生を思い返しながら読める『路傍のフジイ~偉大なる凡人からの便り~』
30代も後半になると、結婚や転職、昇進などによるライフステージの変化に遭遇することも多くなります。
一方で、40代は少しずつ社会的な地位も意識するようになり、人生をどう楽しめばいいかに自然と目が向く時期です。
自分の周辺にある人生の豊かさや楽しみに目を向けるようになる年代にさしかかる方も、その年代になっている方も、自身の人生を振り返りながら読んでみてはいかがでしょうか。