圧巻の廃墟美が魅力 終末世界で生命を探す少女を描いたポストアポカリプスの新風『ウスズミの果て』

圧巻の廃墟美が魅力 終末世界で生命を探す少女を描いたポストアポカリプスの新風『ウスズミの果て』

文明社会が崩壊し、荒廃した世界で生きる人々を描くポストアポカリプス。いわゆる終末ものとされるジャンルは、近年の日本マンガ界の中でも特に人気があるテーマの1つです。

今回紹介する『ウスズミの果て』(作者:岩宗治生/KADOKAWA)もこうしたポストアポカリプス作品の1つ。初連載とは思えない作り込まれた世界観が話題を呼び、注目を集めています。

目次

荒廃した世界で生命を見つけるためにさまよう少女の物語

ボロボロのカーテンがはためく荒廃したビル群の一室。いつも通りに朝を迎えた小夜と相棒のクー。いつものように朝食を食べた後、小夜は武装して静寂に包まれた街へと繰り出します。

彼女の目的は2つ。かつて人類が滅亡する原因となった致死性の病――結晶病を浄化し、この地を復興すること。そして、未だ出会ったことのない生存者を見つけること。

静寂に包まれた世界の中で、孤独な少女の毎日はこれからも続いていきます。果たして、小夜は生存者に会うことができるのでしょうか。

手を伸ばせばそこにあるかのような臨場感 建物の描き込みがとにかくすごい!

マンガにおける背景は、作品の世界観を構築する材料としてとても重要な存在です。どんなに話がおもしろかったとしても、背景のディテールが伴っていないと世界に没入することはできません。その点、本作はどのページ、どのコマをとっても背景の描き込みがとにかくすさまじい。

掲載誌ハルタのX(旧Twitter)アカウントでは、作者の岩宗治生先生について「建物を愛し線画にこだわる」と紹介しています。それも納得。圧倒的な画力で描写される緻密な背景――とくに廃墟の描き込みは、かつてそこで暮らしていた人間の息づかいを感じられるほど。人で賑わう商業施設も、毎日生活する自宅も。人間がいなくなった後はこうなるのだろうなあと。どこか寂しくも美しい。そんな作者の建物愛が随所に感じられる世界に、気付けば引き込まれていました。

人の残像と愛しきロボットたち 終末の世界で紡がれる出会いも魅力

本作は、ポストアポカリプスのヒット作『少女終末旅行』のような終末ロードムービー要素もありますが、とにかく生きている人間の気配が存在しません。

人類の大半が死滅する原因となったのは、断罪者と呼ばれる異形の存在。それらが放つ瘴気を吸ってしまうとやがて死に至り、新たな瘴気の発生源になってしまうという悪循環に陥っています。結晶病に冒された人間は腐ることがないという点も、生々しく不気味さに拍車をかけていますね。

人間どころか、鳥や虫といった生命の存在すら感じない静かな世界。小夜が出会うのも死んだ人間や機械といった無機物が大半です。

結晶病に冒されるも、死の直前まで絵を描いていた男女。
フレンドリーな火葬場の管理人ロボット。
映画好きな男の人格をコピーし、壊れる日まで映画を見続けるロボット。
主人が亡くなっていることに気付かず、ずっと寄り添うお屋敷のアンドロイドメイド。

命尽きる瞬間まで各々の営みを続けていた人間たちの残像。人のいない世界でも動き続ける愛すべきロボットたち。彼らとの出会いの対比があまりにも切なく物語に深みを加えています。

小夜を取り巻く環境は、どうしようもなく寂しいものであることは間違いありません。なのに、彼女自身は人がいなくても仕方がないというある種諦めのような淡々としたスタンスのためか、恐怖や絶望はさほど感じられません。彼女にいつも寄り添う可愛らしい謎の生物クーの存在も、こうしたマイナス感情を払拭してくれています。

ほの暗さは確かにあるのに、どこか気楽でむしろほのぼのでさえある。そんな読後の余韻を味わえるのも、本作ならではの魅力でしょう。……それにしても、クーが何者なのかとても気になります。

終わりがあるから美しい ポストアポカリプスの魅力を体現した注目作

近年は名作『進撃の巨人』のヒットもあって、ポストアポカリプス作品の人気が高まっています。とはいえ、文明崩壊後の世界という共通点はあるものの、サバイバル、アクション、ロードムービーなどジャンルは多彩。終末世界をどのように調理するかは、作者の力量と個性が問われます。

絶望の中にある希望、荒廃した世界。『ウスズミの果て』もまたその魅力を十分に体現している作品と言えるでしょう。

終わりゆく世界の美しさを描くポストアポカリプスにどうしようもなく惹きつけられる人は、ぜひ読んでほしい作品です。

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