夕暮れの町は2人だけの世界――少女達の怪奇譚『ゆうやけトリップ』

昼と夜の境目である夕暮れ時。このわずかな時間にしか見ることのできない夕焼け空は、美しくもどこか妖しく不安な空気を感じませんか?
それもそのはず、古来より日本では逢魔が時とも呼ばれる夕暮れ時は、幽霊や妖怪などの怪異に遭遇しやすいとされてきました。オカルトブーム全盛の頃に大流行した名作怪談の数々も、夕暮れ時という独特の雰囲気がより怖さを引き立てていたように思えます。
今回紹介するのは、そんな夕焼けに彩られた街で、2人の少女が心霊スポットを探検する『ゆうやけトリップ』(ともひ/芳文社)です。
小説版『ひぐらしのなく頃に』の実力派イラストレーターが描く唯一無二の物語
本作は、2019年12月27日より「COMIC FUZ」にて連載を開始。2021年3月1日に書籍版1巻が刊行されています。夕焼け色に包まれた急勾配の坂の町、笑い合う2人の少女。書籍版1巻表紙に描かれているカラーイラストのあまりの美しさに表紙買いしてしまう人も多いはず。
それもそのはず、作者のともひ先生は、2000年代に一大ブームを巻き起こした『ひぐらしのなく頃に』の小説版イラストレーターを務めた実力派! 繊細なタッチと色彩の美しさが、見る人に鮮烈な印象を残します。
そんな本作は、独特の世界観が話題を呼び、各種メディアでも多数紹介! さらには英語翻訳版とフランス語翻訳版も販売されるなど、日本のみならず海外でも注目されている作品なのです。
本作のあらすじ
蜷森 茜(になもり あかね)は、宵の坂町の中学校に通う中学二年生。近頃、茜が通う学校を騒がせるのは、町内の各所に点在する心霊スポットの怖い噂。墓下トンネル、ループ階段、生首神社の鳥居……。
新聞部に所属する茜は、これらの心霊スポットの取材を任されることに。1人での取材に心細く感じた茜は、たまたま教室に残っていた転校生の雨村 藤乃(あめむら ふじの)に、「帰り道ふたりで心霊スポットに寄り道しませんか?」と声をかけます。この日から、2人きりの放課後心霊スポット巡りが始まったのでした。
作中の舞台である宵の坂町は、その名前が示すように町中の至るところで複雑に坂道が入り組んだ作りとなっています。
坂の町といえば広島県尾道市や長崎県長崎市が有名ですよね。しかし、宵の坂町の坂の入り組み具合はその比ではありません。さらに、町内には古くから怪談に縁のある心霊スポットがたくさん存在します。
登場する心霊スポットも、怪談や都市伝説でお馴染みのトンネルや階段、神社、貯め池などなど。町や心霊スポットといった背景の細部まで行き渡る描き込みや時間の移り変わりが、架空の町なのにまるで存在しているかのような息づかいを感じるのは作者の技量あってのものでしょう。
心霊スポットは、今の時代ならインターネットでいくらでも情報を調べることができそうですが、作中には無粋なスマホやインターネットの類いは一切登場しません。それがどこか80~90年代オカルトブームの頃のような雰囲気を演出しています。
さらに言えば、本作には直接的な怪異などの存在は一切登場しません。茜と雨村さんが心霊スポットへ足を運び、心霊現象の謎を解き明かし、壁新聞を通じてレポートを発表するのが一連の流れとなっています。
古今東西のオカルト話や都市伝説が好きなオカルトファンの私からすれば、謎は謎のままである方がいろいろと想像できて楽しいと思う反面、心霊スポットの謎を解き明かしていく本作のスタイルも小気味よくて好きです。
謎多き町と雨村さんの秘密は?
町に点在する心霊スポットの謎もさることながら、茜の心霊スポット探訪にいつも付き合ってくれる雨村さんの謎も気になるところです。どこか儚く人を寄せ付けない雰囲気、いつ転校してきたかもわからない、いつも学校でお昼ご飯を食べていない。彼女は優しいけれどどこか不穏な空気もまとっています。
しかし、雨村さんの正体が何であろうと茜はきっと誠実に向き合うだろうという安心感があります。それほどまでに彼女たちのセリフや行動が逐一尊いのです。
心霊現象の謎も判明している。なのに、どこか不穏さがつきまとう独特の空気感、夕暮れの時だけの2人だけの時間。ずっとこの町で暮らしてきた茜という少女の視点から、オカルトもノスタルジックな町歩きも探偵要素も日常も百合も楽しめる贅沢な作品となっています。
本作は2021年度はともひ先生の体調不良により一時連載休止されていましたが、2022年1月後半より第二部の連載再開が作者のTwitterにて発表されています。今後2人がどのようにして新たな心霊スポットの謎を解き明かすのか、雨村さんの正体は明らかになるのか。今、最も続きが気になる作品です!