賃貸経営の収支シミュレーション完全ガイド——家賃8万円のワンルームで手残りはいくら?

賃貸経営の収支シミュレーション完全ガイド

「家賃収入=利益」ではない。

これは賃貸経営の最も基本的な事実ですが、意外なほど多くのオーナーがこの点を曖昧にしたまま経営を続けています。家賃8万円の物件を持っていても、毎月8万円が手元に残るわけではありません。管理費、修繕費、ローン返済、税金、保険料——家賃から差し引かれる項目は多岐にわたり、実際に手元に残るお金は家賃の20〜40%程度にまで減ることも珍しくありません。

この「手残り」を正確に把握していなければ、AD(広告料)をいくらに設定すべきかも、設備投資にいくらかけるべきかも、そもそもこの物件を持ち続けるべきかも判断できません。

本記事では、家賃から引かれる全項目を整理し、家賃8万円のワンルームを例に実際のシミュレーションを行います。自分の物件に当てはめて計算できるよう、考え方の型をお伝えします。

目次

家賃から引かれる全項目を整理する

賃貸経営のランニングコストは、大きく「毎月定期的に発生するもの」と「不定期に発生するもの」に分けられます。一般的に、ランニングコストの合計は家賃収入の20〜30%程度が目安とされていますが、ローン返済を含めると50〜80%に達することもあります。

まず毎月定期的に発生するコストです。

ローン返済は、多くのオーナーにとって最大の支出項目です。物件価格、借入額、金利、返済期間によって金額は大きく異なりますが、家賃収入の40〜60%を占めるケースも珍しくありません。元利均等返済の場合、毎月の返済額は一定ですが、返済初期は利息の割合が大きく、元金の減りが遅い点にも注意が必要です。

管理委託費は、賃貸管理会社に入居者管理・建物管理を委託する場合にかかる費用です。相場は家賃収入の5%程度です。家賃8万円なら月4,000円前後。自主管理の場合は不要ですが、入居者対応やトラブル処理を自分で行う手間がかかります。

修繕積立金・管理費は、区分マンションの場合にマンション管理組合に毎月支払うものです。LIFULL HOME’Sの調査によると、東京都の築11〜20年の中古マンションの修繕積立金は月額約13,000〜14,000円程度まで上昇しています。管理費と合わせると月額2万円を超えるケースもあります。一棟アパートの場合は管理組合がないため、オーナー自身が修繕費を積み立てる必要があります。

次に、毎月ではないが定期的に発生するコストです。

固定資産税・都市計画税は、毎年1月1日時点の不動産所有者に課される税金です。年に一括または4回に分割して支払います。金額は物件の固定資産税評価額によって異なりますが、ワンルームマンションで年間5〜10万円程度が目安です。月割りにすると4,000〜8,000円程度になります。

火災保険・地震保険は、物件を守るために加入する保険です。一棟アパートか区分マンションか、建物の構造(木造か鉄骨かRC造か)によって金額は異なりますが、年間1〜3万円程度が一般的です。

そして不定期に発生するコストです。

原状回復・クリーニング費用は、入居者が退去するたびに発生します。ワンルームで3〜8万円程度。入居者の入退去頻度を考慮して、年間ベースで按分しておくのが実務的です。

入居者募集費用(AD・仲介手数料)も退去のたびに発生します。ADは家賃の1〜3ヶ月分が一般的。これも入退去の頻度で按分して月額コストとして計上しておくと、収支の実態が見えやすくなります。

さらに、確定申告を税理士に依頼する場合は年間10〜30万円程度の費用、不動産所得に対する所得税・住民税も忘れてはなりません。

家賃8万円のワンルームで実際に計算してみる

では、具体的にシミュレーションしてみましょう。

前提条件は以下の通りです。都内近郊の区分ワンルームマンション、築15年、家賃8万円、ローン残あり(借入残高1,500万円、金利2.0%、残返済期間20年)、管理会社に委託。

まず毎月の定期支出を算出します。ローン返済は元利均等返済で計算すると月額約75,900円ですが、ここではわかりやすく約76,000円とします。ただしこの金額は借入条件により大きく変わるため、実際にはご自身のローン契約書で確認してください。

管理委託費は家賃の5%で4,000円。修繕積立金と管理費の合計を月額15,000円と仮定します(物件により異なります)。固定資産税・都市計画税を年間7万円として月割り約5,800円。火災保険を年間1.5万円として月割り約1,300円。

ここまでの定期支出の合計は月額約102,100円です。

家賃収入8万円に対して、定期支出だけで約10.2万円。この時点で月々約2.2万円の持ち出しが発生する計算です。

「え、赤字なの?」と驚かれるかもしれませんが、これはローン返済額の大きさによるものです。ローンの返済額のうち元金返済部分は実質的には資産の積み上げ(負債の減少)であり、会計上は経費にならない一方、減価償却費という帳簿上の経費が計上できるため、税務上の所得は実際のキャッシュフローとは異なります。

つまり、「キャッシュフロー上の手残り」と「税務上の利益」は別物です。ここでは経営判断の基礎として、実際に手元に残るキャッシュ(キャッシュフロー)に焦点を当てます。

さらに不定期コストを按分して加えます。原状回復費を3年に1回・5万円として月割り約1,400円。AD・募集費用を3年に1回・家賃2ヶ月分(16万円)として月割り約4,400円。

すべて合算した月間総支出は約107,900円。家賃収入8万円との差は約▲27,900円。月々約2.8万円のキャッシュフローのマイナスです。

ただしこれは「ローン完済前」の姿です。ローンが完済すれば、月額約76,000円の支出がなくなり、手残りは月額約48,000円のプラスに転じます。つまり、ローン返済中は「将来のキャッシュフローを先食いしている状態」とも言えます。この構造を理解した上で、返済中の期間をどう乗り切るかが賃貸経営の腕の見せ所です。

なお、ここで示したシミュレーションはあくまで一例です。ローン金利や借入額、管理費・修繕積立金の金額、固定資産税の評価額は物件ごとに大きく異なります。必ずご自身の物件の実際の数字を使って計算してください。

物件タイプ別の収支構造の違い

同じ賃貸経営でも、物件のタイプによって収支構造は大きく異なります。

都心ワンルーム(家賃8万円)は、空室リスクが比較的低く安定した家賃収入が見込めますが、物件価格が高いためローン負担が重く、キャッシュフローは薄くなりがちです。管理組合への修繕積立金・管理費も固定で発生します。

郊外1LDK(家賃6万円)は、物件価格が都心より抑えられるためローン負担は軽減されますが、空室リスクは都心より高くなります。立地によっては募集期間が長期化し、ADコストがかさむ可能性があります。

地方ファミリー向け2LDK(家賃5万円)は、物件価格が安く表面利回りは高くなりますが、空室が長引くリスクが最も高いタイプです。一方で、ファミリー層は単身者に比べて入居期間が長い傾向があるため、退去コストの按分は小さくなる利点があります。

どのタイプが有利かは一概に言えません。重要なのは、自分の物件の収支構造を正確に把握し、「自分の場合はどうなのか」を数字で理解していることです。

手残りを改善する3つのレバー

収支シミュレーションの結果、手残りが少ない(またはマイナス)と判明した場合、改善の方向性は大きく3つあります。

1つ目は収入を上げることです。家賃の適正化(相場より低すぎないか確認する)、設備投資による賃料アップ(Wi-Fi無料化、宅配ボックス設置など、投資回収が見込める範囲で)が選択肢です。ただし、家賃を上げるには物件の競争力が伴っている必要があり、空室リスクとのバランスを慎重に判断すべきです。

2つ目は支出を下げることです。管理会社の見直し(同等の管理品質でより安い委託費の会社がないか比較検討する)、ローンの借り換え(金利が下がる場合は効果が大きい)、火災保険の見直し(補償内容を変えずに保険料を下げられるケースがある)が主な手段です。

3つ目は空室を減らすことです。これが最もインパクトの大きいレバーです。家賃8万円の物件で稼働率が95%と90%では、年間で月4.8万円の差が生まれます(8万円×12ヶ月×5%=4.8万円)。入居者の退去を防ぎ、退去が発生した場合は空室期間を最短にする。この2つの組み合わせが、手残り改善の最大のポイントです。

「手残り」を起点に経営判断をする

収支シミュレーションで手残りの数字が見えると、それを起点にあらゆる経営判断ができるようになります。

AD(広告料)の上限は、手残りの何ヶ月分まで許容できるかで決まります。リフォームの予算は、家賃アップ額×想定入居期間で投資回収できるかどうかで判断できます。物件を売却すべきかどうかは、保有し続けた場合の累積キャッシュフローと売却益のどちらが大きいかで比較できます。

こうした判断をすべて「数字」で行えるようになるのが、収支シミュレーションの最大の価値です。

実務的には、Excelやスプレッドシートで月次の収支表を作っておくことをおすすめします。項目は本記事で挙げたものをそのまま並べれば十分です。毎月の家賃入金と各支出を入力していけば、年間の手残りが自動で算出されます。

「なんとなく回っているからまあいいか」という経営から、「毎月の数字を把握して判断している」経営へ。その第一歩が、この収支シミュレーションです。まだ自分の物件の手残りを正確に計算したことがない方は、ぜひ一度やってみてください。

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