『ちいかわ』大ブームの裏側! 現代人が求める”癒し”について学べる漫画3選

疲れた現代人に、なぜ『ちいかわ』が刺さるのか
我々現代人は、少々お疲れ気味です。仕事、学校、人間関係……。気づけば常に何かに追われ、心を休める暇もない。そんな日々の繰り返しの中に突如として現れた、なんか小さくてかわいいやつ――『ちいかわ』(ナガノ/2021年~)。
『ちいかわ』は、2017年にイラストレーターのナガノさんが「こういう風になって暮らしたい」という、X(旧Twitter)へ投稿されたイラストが原点。シンプルながら可愛いらしいキャラクターたちが話題になります。そして、2020年1月からは、Xでの連載がスタートします。2021年に単行本化され、2022年にはアニメ化。子どもから大人まで、幅広い世代に親しまれる国民的作品へと成長しました。
本作は、主人公のちいかわと周囲のキャラクターたちの日常を描いた可愛らしいほのぼの物語……というのはほんの一面に過ぎません。ちいかわが生きる世界は、かなり過酷で不条理です。生きるためには働かないといけませんし、努力しても報われないこともありますし、危険な化け物もはびこっています。ちいかわはこの世界においてはかなり弱い存在なので、命の危険とも隣り合わせです。
そんな世界の中で仲間と支え合い、時に泣き、時に笑い、小さな幸せを見つけながら生きる姿に、読者は現実で生きる自分たちを重ねて共感しているのではないでしょうか。そこで今回は、【『ちいかわ』大ブームの裏側!現代人が求める”癒し”について学べる漫画】を3作品紹介します。
■『ねこようかい』(ぱんだにあ/2016年~)
ねこと妖怪が混ざり合った不思議な生き物「ねこようかい」。彼らと共に暮らす人間や、偶然関わりをもつ人々との穏やかな日常を描いたハートフルな四コマ漫画です。ねこようかいたちは元になった妖怪の性質を持ちますが、やはり根っこはねこ。普通のねこよりちょっと個性的だね、という程度で普通に人間たちに受け入れられています。
この作品と『ちいかわ』との共通点は、なんと言っても可愛らしいキャラクター造形でしょう。シンプルなタッチながら、丸くやわらかいフォルムと、どこかとぼけた表情。その姿を見るだけで、なんとなく微笑ましい気持ちになる人は多いはず。
ねこようかいたちは人間にそっと寄り添い、言葉ではなく仕草や存在そのもので癒してくれる存在です。落ち込んでいる人のそばで静かに見守ったり、小さな優しさをくれたり。そんな何気ない思いやりが、読む人の心にもじんわり染みていきます。
■『ふたりエスケープ』(田口 囁一/2020年~2023年)
常に〆切に追われる現役漫画家の後輩と、そんな後輩の家に居候する可愛いだけが取り柄の無職の先輩。〆切という現実から逃避するために、2人がいろいろと挑戦していく癒し系コメディです。
『ふたりエスケープ』は、社会の義務やプレッシャーから“逃げる”ことを否定しない作品です。疲れたら旅に出てもいいし、誰かと何もしない時間を過ごしてもいい。そんなメッセージが、逃げたいと思った読者の心をそっと肯定してくれます。現実逃避のプロである先輩が提案する方法も、どれも無理なく試してみようと思わせるアイディアばかりなのも魅力ですね。
ちいかわが評価されている理由の1つが、食べ物や飲み物がやたら美味しそうなこと。『ちいかわ』たちは、草むしりや討伐など日々の仕事に疲れながらも、たまにささやかな“逃避”で心を癒しています。きっと、食べることが彼らにとって生きる楽しみだからなのでしょうね。
両作品に共通する“逃避”は、どちらも逃げることは悪いことではなく、生きるための大切な休憩として描いていることです。がんばり続けることよりも、ひと休みして小さな幸せを味わうことを大切にしている。それが、現代流の優しい癒しの形なのかもしれません。
■『甘々と稲妻』(雨隠ギド/2013年~2018年)
シングルファザーの犬塚公平は、娘のつむぎと2人暮らし。半年前に妻を亡くしてから、仕事と子育てに追われる毎日を送っていました。けれど、料理は全くできず食生活はボロボロ。そんなある日、教え子の女子高生・飯田小鳥と一緒に手料理を作るようになります。料理初心者の2人が、つむぎのために少しずつ食卓を囲む時間を増やし、やがて「ごはん会」というかけがえのない時間を過ごしていくことになるのでした。
本作の癒しは、料理と食事を丁寧に描いている点にあります。料理はただの食事ではなく、人の心をつなぐ行為そのもの。豚汁やハンバーグといった身近な料理を一緒に作ったり食べたりする時間を過ごし、笑顔になる。そして、何かに悩んだり壁にぶつかったりするつむぎや小鳥に、唯一の大人である公平がかける言葉も押しつけがましくなくて良いのですよね。
そんな『甘々と稲妻』と『ちいかわ』との癒しの共通点は、小さな幸せではないでしょうか。どちらの作品も、日々の中にあるちょっとした嬉しさをすくい上げるように描かれています。『ちいかわ』では、美味しいごはんを食べたり、仲間と笑い合ったりするひととき。『甘々と稲妻』では、つむぎを中心に出来立てのご飯を囲んで笑顔になるひととき。どちらも、がんばった後に幸せはそこにあると教えてくれる物語です。ただし、どちらも読む時間帯によっては確実に飯テロになるので要注意です。
3つの漫画で学べるポイント
今回紹介した3作品は、ちいかわのように現代に通じる癒しをさまざまなアプローチから描写しています。
『ねこようかい』は、見えないところで誰かを思いやるやさしさを描いています。かわいらしい妖怪たちは、人間の悲しみや不安に気づき、そっと寄り添う存在です。言葉は通じなくても、静かな仕草や温かいまなざしに読む人の心もほぐれていきます。押しつけではない、そっと支える癒し。まさに、現代人が求めている優しさの形ではないでしょうか。
『ふたりエスケープ』は、逃げてもいいんだと背中を押してくれる癒しです。仕事や人間関係に疲れたとき、スマホを物理的に封印してデジタルデトックスしたり、いつもの電車の終点に行ったり。そんな小さな逃避を肯定し、休むことも生きる一部だと教えてくれます。がんばりすぎてしまう人ほど、ふっと心の緊張を軽くしてくれる作品です。
『甘々と稲妻』は、誰かと食卓を囲むことで生まれる癒しを描いています。料理の上手さではなく、一緒に作って食べること自体が心を満たしていく。日々の疲れや孤独をやさしく溶かし、読者にも日常の幸せを思い出させてくれます。
まとめ – 心が疲れたときに読みたいちいかわ的な“癒し”を感じる漫画たち
SNSから発祥し、今や日本を飛び越えて世界でも人気を博しつつある『ちいかわ』。その魅力を一言で言い表すことはできませんが、やはり根底にあるのは「小さくても弱くても、それでも前を向こうとする存在」への共感だと思います。
ちいかわたちは、がんばりすぎてしまう現代人の小さな分身のような存在。だからこそ、彼らが見せるささやかな前向きさが、私たちの心をそっと癒してくれるのかもしれません。
今回、ちいかわ的な癒しという視点から選出した3つの作品は、どれもがんばれない自分を受け入れてくれる優しさに満ちています。それぞれが違うアプローチで、毎日を懸命に生きる私たちに休む勇気を与えてくれます。日常の中でちょっと疲れたときに読めば、明日を生きる小さな元気がふっと戻ってくるはずです。
(執筆:森野沙織)
