「M-1グランプリ」今年の栄冠は誰の手に? 笑いに青春をかける若者たちの漫画3選

M-1グランプリ今年の栄冠は誰の手に?笑いに青春をかける若者たちのマンガ3選

芸人たちの熱きドラマを描き出す「M-1グランプリ」

気づけば2025年も残り少なくなり、冬の風物詩の一つ「M-1グランプリ」決勝の季節が近づいてきました。

2001年からスタートした「M-1グランプリ」は、初代王者の中川家に始まり、フットボールアワーやアンタッチャブル、ブラックマヨネーズやチュートリアルなど数々の実力派漫才師がチャンピオンに輝いて、若手漫才師の登竜門になりました。2010年、当時の決勝常連組であった笑い飯が悲願の王者となった回で一旦終了しましたが、2015年に復活。トレンディエンジェルや霜降り明星、ミルクボーイに令和ロマンなどの次世代漫才師スターを輩出し続けています。

「M-1グランプリ」の魅力は、大会で披露される芸人たちの渾身の漫才、そして、しゃべくりで人生を変えようと戦う彼らの熱きドラマです。大会の歴史の中で特に劇的な出来事をあげるなら、2007年にチャンピオンとなったサンドウィッチマン。当時名前が知られていたとはいえない彼らが敗者復活戦から返り咲いて栄光を掴んだ感動の瞬間は、いまだ多くのお笑いファンの心に残っているのではないでしょうか。

近年においても、2021年に錦鯉が歴代最年長のチャンピオンに輝き、2023年、2024年には令和ロマンが史上初の連覇を成し遂げるなど、「M-1グランプリ」が描き出す芸人たちのドラマは進化を続けています。まさに笑いあり涙ありの極上エンターテイメント舞台となりつつある「M-1」。今回は、この笑いの祭典をよりいっそう楽しむべく、お笑いの道を志す若者たちを描いた漫画作品を紹介します。

笑いに青春をかける若者たちの漫画3選

■『べしゃり暮らし』(森田まさのり/2005年~2019年)

2008~2010年の「M-1グランプリ」ポスターにも起用された芸人漫画の金字塔的作品です。人を笑わせることを生きがいとする主人公・上妻圭右と元芸人の辻本潤。高校で出会った二人がお互いの力を認めて漫才コンビを結成し、芸人への道を歩み始めます。 原作者が吉本興業の養成所・NSC(吉本総合芸能学院)に実際に入学して取材したというだけあって、本作は現実のお笑い界を思わせる臨場感が満載。劇中では、「M-1」のような賞レース「NMC(ニッポン漫才クラシック)」も開催されます。ときに失敗し、ときに打ちのめされながらも、自分たちの「べしゃり」のために奮闘し続ける圭右と潤。彼らを中心に先輩芸人やライバルたち、応援する友人らの物語も絡みつつ、笑いの世界で頂点を目指す若者たちのリアルな生き様が伝わってくる作品です。

■『恋はネタ作りの後で』(寺岡さこ/2017年)

主人公は女芸人のかおる。ピン芸人として舞台に立つも笑いがとれず行き詰まっていたところ、合コンで出会った青年・晴己とコンビを組むことに。笑いに厳しい晴己の指導のおかげでようやく芸人としての魅力を発揮していくかおるでしたが、同時に晴己を異性として意識するようになり……?

女性が主人公の漫画はときに恋愛の比重が多くなりがちですが、この物語はかおるの芸人としての成長と恋愛模様が程よいバランスで描かれているのが特徴。笑いと恋の狭間で悩みながらも芸人であることを諦めず挑戦していくかおるが非常に魅力的で、読んだ人はきっと彼女を応援したくなるはずです。

■『スベる天使』(桜箱/2024年~)

冴えない高校生男子・城間は、ある日クラスメイトの美少女・天羽舞がモノマネの練習をしている場面に出くわします。実はお笑いが好きで芸人を目指している天羽。城間が成り行きで「俺も芸人を目指そうとしたことがある」と口走ったのをきっかけに、二人はコンビを組むことになりネタ作りに挑戦していきます。

お笑いが大好きで楽しいことがしたいと願う天羽と、天羽の真剣さに心動かされて彼女とともに笑いと向き合っていく城間。高校二年生の若い二人が自分たちなりにまっすぐお笑いに取り組み、友人や恋人とはまた違う「相方」という距離感で絆を育んでいく姿がとてもみずみずしい青春ストーリーです。

学べるポイント

今回紹介した3作品は、いずれもお笑いに真剣に取り組む若者たちを描き、それぞれの形で笑いを追求する上での難しさや厳しさを伝えています。

『べしゃり暮らし』に登場する芸人たちは、みな足掻いてばかり。舞台で爆笑がとれるときもあれば激しくすべるときもあり、ちょっとした判断ミスで観客をドン引きさせたり不本意な結果に終わってしまうことも。また、相方との確執やお金を稼がなくてはいけない苦しさ、不本意な笑いの取り方を要求される理不尽さなど、それぞれが様々な壁にぶつかって苦しんでいて、笑いの世界で生きるのはこうも厳しいことなのか……と感じずにいられません。

『恋はネタ作りの後で』の主人公・かおるは、ピン芸人として活動するも鳴かず飛ばず。運よくかおるの良さを引き出してくれる晴己と出会えましたが、相方となった晴己に恋心が芽生えてしまい、悩むことになります。男女コンビの場合、異性同士であることが強みになる場合とネックになる場合の両方の可能性が考えられ、かおるのように相手を異性として強く意識してしまうケースもおそらくあるのではないでしょうか。

『スベる天使』の二人もコンビを組んで程なく問題に直面します。天羽を傷つけたくないがためにネタで気になる部分があっても口に出せない城間。しかし、結果的には彼がためらったことが二人の間に溝を作りかけてしまいます。芸人たちがコンビやトリオを組んだ際は、当然相方と考えが合わないとき、厳しいことを言わざるをえないときがあり、それらをどう乗り越えるか?ということもまたお笑いを続けていく上での難しさといえます。

3作品のいずれも物語の中の芸人たちは笑いのために四苦八苦していて、それぞれを読み進めるほどに芸人のネタは決して一筋縄ではいかないということがわかります。とはいえ、どの作品もお笑いの厳しさのみを描いているわけでは決してなく、笑いをとることの達成感や相方と組んでネタをする楽しさなども十分に描き出しています。苦しいけれどそれでもワクワクできるからお笑いをやる。そんな若者たちの思いがこの3作品からは伝わってくるのです。

まとめ 芸人たちの“軌跡”に目を向けると、「M-1」がより楽しくなる

「M-1グランプリ」の第1回の参加組数は1,603組でした。その後、回を重ねながら参加者が増えていき、2025年は昨年に続いて1万組を超えるエントリーがあり、過去最多の数字となっています。

1万組以上の参加者たちの中には、今回紹介した作品の登場人物のような苦労や葛藤を重ねた面々もおそらくいるに違いないでしょう。だからこそ、ネタだけでなく彼らの挑戦の軌跡にも目を向けてみたら、「M-1グランプリ」がより味わい深く、また感慨深いものとなるはず。笑いに挑む若者たちの漫画とともに、12月に開催予定の決勝や敗者復活戦をぜひ楽しんでください。

(執筆: 田下愛)

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