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TOP > スタッフブログ > 2023/09/25

完全犯罪の裏に犯人の苦労あり!? 『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』

いきなりですが皆さんは、推理ドラマなどで密室トリックの謎解きを見て「理屈ではわかるけど現実にそんなうまくできるの?」と感じたことはないでしょうか。

さて今回ご紹介するのはまさにそうしたテーマに挑んだ作品。大人気のミステリー漫画を題材に、犯人側の苦労をドタバタコメディに仕上げた公式スピンオフ『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』です。

我ながら完璧なトリックだ。この場に名探偵でも現れない限り…

まず原作となった『金田一少年の事件簿』は、1992年に週刊少年マガジンでの連載がスタートした本格推理漫画です。主人公は名探偵として知られる金田一 耕助の孫である、金田一 一(きんだいち はじめ)。普段の彼はおちゃらけたスケベ男子ですが、いざ事件に遭遇すると天才的ひらめきで警察さえ悩ませる難解なトリックを見破って解決に導きます。

もし未読でも「ジッチャンの名にかけて!」という金田一少年の有名なセリフは知っている人も多いのではないでしょうか。

TVアニメや実写化もされ、シリーズ累計発行部数はなんと1億を越えているというのですから驚きですね!

そんなヒット漫画の外伝となる本作は、「あの事件が起こっている裏で犯人は何をしていた?」という犯人側の視点が描かれていきます。

え? これ私が一人で全部やるの…?

本作の見どころは、思わず犯人に同情してしまうほど多くの苦労が「完全犯罪」の裏に隠されていたのを楽しめる点でしょう。

そもそも『金田一少年の事件簿』の特徴といえば、大胆なトリックと鮮やかな謎解きに加え、殺人演出がや非常に凝っているところです。ただ人が死ぬだけでなく、古典小説「オペラ座の怪人」と同じ流れで被害者たちが殺される、タロットカードの暗示に見立てて被害者の死体が発見される、といった具合です。

当然そこまでやるからにはトリックも大掛かりになり、ややネタバレになりますが以下のような感じです。

・猛吹雪の中で崖と崖の間に「氷の橋」を作って本来なら不可能な近道をする
・被害者の死体を地上数メートルの風車にくくりつける
・窓枠の外に見えないよう張り巡らせておいたワイヤーで死体を上の部屋まで引っぱり上げる

たしかにこれらは事件の謎解きを混乱させ、残りのターゲットに強い恐怖心を抱かせる効果はあるでしょう。しかし冷静に考えて、推理モノの大半は単独犯です。非力な女性が犯人ということも珍しくありません。

本作でも連続殺人を着々と進める中、犯人自身が「これは無理では?」と半泣きになりながらトリックを完成させていく姿がたびたび描写され、涙と笑いを誘います。

私が読んでいて実際に飲み物を口から噴いたのは、犯人が殺人現場に足跡を残さないよう、開いたドアの上部を両腕で次々とつかみながら離れた場所まで移動するトリックのシーン。このエピソードの犯人は中年おじさんだったのですが、「追いつかん……ッ!! トリックに肉体が追いつかん……ッ!!」と心の中で泣き言をもらしていました。

少しでもミスすれば完全犯罪にならない、それを本番一発勝負、単なる一般人がアスリート並の身体能力で人間やモノを運ぶ必要がある、というわけで、フィクションでよくある「誰も出入りできない密室での殺人」がいかに無茶なのかよく理解できる作品です。

しかもストーリー展開は原作と同じですから、苦心して作ったトリックもほんの些細な違和感から天才・金田一少年に見破られてしまい最終的には破綻します。おまけとして敗れ去った犯人にインタビュー形式で「今回の敗因は?」と尋ねる罰ゲームのような特設コーナーもあって、本当に(人が死んでいるので不謹慎ではありますが)最後まで笑わせてくれます。

外伝から本編に入門する読み方もアリ!

ちなみに外伝漫画といえば本編を読んでいなければ理解できないのでは、と思われがちですが、この『犯人たちの事件簿』に関しては大丈夫でしょう。単行本では元になったエピソードの概要がしっかり解説されており、最低限の知識をもった状態で読みはじめられます。

また、最初から犯人視点なので「誰が犯人なのか?」という推理要素はなくなっていますが、その上で原作を読んでも個人的には楽しさを損なうことはありませんでした。

公式スピンオフとはいえ原作者とは別の作家が考えたギャグストーリーですし、犯人がわかっていても十分におもしろいのが『金田一少年の事件簿』の名作たるゆえんです。

すでに30周年を迎え、今なお最新作『金田一37歳の事件簿』が連載中という現役コンテンツでもある金田一少年シリーズ。未読の人はとっかかりとして、すでに読んできた人は良質な外伝として、お腹を抱えて笑える本作を手にとってみてはいかがでしょうか?

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