TOP > スタッフブログ > 2024/01/29

真打を目指す女子高生噺家の奮闘を描いた新世代の落語ストーリー

業界からも注目される本格落語漫画

落語といえば、言わずと知れた日本の伝統芸能。噺家の巧みな話術と演技力は聴衆を自分の世界へと誘い、笑いと感動を提供してくれます。聴き手の想像力も要求されるため時に難しいと感じることもありますが、その魅力は現代でもなお色あせることはありません。

今回ご紹介する『あかね噺』（原作：末永裕樹、作画：馬上鷹将／集英社）は、そんな落語の世界を舞台に、一人の少女が噺家を目指す姿を描いた物語です。本作は、2022年2月14日より週刊少年ジャンプで連載を開始。マンガ大賞2023では2位を受賞し、プロの落語家たちも注目している人気作です。

『あかね噺』のあらすじ

あかねの父、阿良川志ん太は落語家。いないのにいる、ないものが見える。彼の口から飛び出す話は、まるで魔法のよう。そんな父の影響を受けたあかねもまた、屈指の落語バカへと成長します。同級生からどんなに小馬鹿にされようとも、志ん太は彼女の誇りでした。

そんな志ん太は真打昇格試験に挑みます。真打（しんうち）とは、落語界においてトップに当たる階級のこと。寄席では大トリに登場する花形であり、スターです。真打になればギャラも上がるし、家族に楽をさせてやれる。何より、あかねにも誇れる父でいられる。本番では最初こそ意気込みが空回りするものの、ひたすらに人情話に徹し、会場を沸かせた志ん太。

しかし、阿良川一門のトップ阿良川一生から破門を宣告されてしまいます。志ん太は心が折れてしまい、落語家を廃業することに。

あかねは父の無念を晴らすべく、志んの師匠阿良川志ぐまに弟子入りを志願。17歳へと成長したあかねは、落語界の最高峰である真打になるべく噺家『阿良川あかね』としての道を歩み始めたのでした。

初めて落語に触れた日の記憶

自分の話になりますが私が人生で初めて落語に触れたのは、小学生時代です。当時の担任教師が落語研究会出身で、とても熱心に取り組んでいた方でした。特に記憶に残っているのは、先生が地元の老人ホームで公演を行ったときのこと。

演目は超有名な古典落語の名作『寿限無』。父親が子供に縁起の良い名前を付けようとして、和尚さんから教えてもらった名前を全部付けて非常に長くなったというお話です。ストーリーを知らなくても、『寿限無　寿限無　五劫のすりきれ　海砂利水魚の水行末～』というフレーズは知っている人も多いのではないでしょうか。

先生は身振り手振り、表情だけで私を噺の世界へと引き込みました。正直、落語で心から笑うなんて思ってもみなかった経験でした。それはまさに、あかねが父・志ん太の落語に魅了された瞬間と重なります。彼女のように、私もまた言葉だけではない落語の魅力に心を奪われたのです。『あかね噺』を読んで、ついぞ忘れていたこの記憶が蘇ってきました。

理不尽に破門されてしまった父の無念を晴らしたいという、仇討ちの想いから始まった彼女の物語。それが人生を賭けても惜しくない挑戦へと昇華するのに、さほど時間がかかることはありませんでした。それほど、落語には人を引き込む力があるのです。

次世代の落語ブームを牽引する作品

昭和から続く落語ブームは、今も健在です。そのブームを牽引した作品といえば、アニメ化もされた名作漫画『昭和元禄落語心中』が有名ですね。『あかね噺』もまた、この落語の新しい波を象徴する作品の1つと言っても過言ではないでしょう。

綿密に練られたストーリーもさることながら、馬上先生の卓越した画力で描かれる魅力的なキャラクターと落語の臨場感がまた素晴らしい。アクション漫画のような“派手な動き”こそありませんが、本作は噺家たちの“表情の動き”で魅せてくれます。

この表現は、あかねが目指す真打への道のりと彼女の成長を象徴しています。あかねは、落語界の最高峰である「真打」を目指しています。真打になるには、最低でも二ツ目を10年以上経験することが必要。彼女の前にはさまざまな試練が待ち受けています。それを1つずつ乗り越えて、噺家としても人間としても成長していく。そんな物語が、読者にとって魅力的でないはずがありません。

本作は週刊少年ジャンプのYouTube公式チャンネルでボイスコミック化されており、あかねの声を演じる山口茜さんと志ん太の声を演じる山口勝平さんの“リアル親子共演”も話題です。特に、落語家の弟子でもある山口勝平さんの熱演は必見。『あかね噺』に興味を持った方は、ぜひ視聴してみてください。